(※写真はイメージです/PIXTA)

アメリカの新興企業・ピルパックの買収から始まった、Amazonの薬局業界進出。Amazon台頭によって街角の本屋が次々と消えたように、次に消えるのは薬局かもしれません。薬局経営者の渡部正之氏は、Amazonが日本の薬局市場を奪いにきたら薬局は患者を根こそぎ奪われかねないと警鐘を鳴らすとともに、Amazon薬局の日本上陸は時間の問題であると語ります。

DXで後れを取る薬局業界

薬局にとってAmazonが脅威になると考えられる理由としては、薬局をはじめとする医療業界の非効率性が挙げられます。

 

医療業界は、デジタルトランスフォーメーション(DX)が遅れている業界の一つといわれています。これは高い専門性が要求されることや、人命・健康に関わる仕事であるという性質上、ある程度は仕方のないことです。

 

薬剤服用歴などを確認しながら正確に調剤するには時間がかかりますし、処方せん内容に疑問がある場合は医師に確認しなければなりません。

 

どうしても効率化が進みにくい薬局業界にインターネットで簡単に医薬品を注文できるAmazon薬局がやって来たら、非効率な作業を繰り返す薬局はすぐに患者を奪われてしまうと私は考えています。

「電子処方せんの導入」に期待が高まるが…

医療業界のDXの一つとして厚生労働省が導入を検討しているのが、欧米諸国ですでに活用されている電子処方せんです。電子処方せんはこれまで紙で発行されていた処方せんをデータで管理する仕組みで、薬の重複投与などの防止につながり、薬物療法の質向上、効率化などの観点から大きな期待が寄せられています。

 

紙の処方せんの場合、医師から発行された処方せんを患者は薬局へ持参し、それに基づいて薬剤師が調剤します。また薬局では、調剤済みの処方せんを3年間保存することが求められていました。しかし電子処方せんが導入されれば患者が紙の処方せんを薬局へ持参する必要はなく、処方・調剤情報は政府が運営するオンラインサービスであるマイナポータルなどを通じて確認できるようになります。

 

薬局でも電子処方せんに基づいて調剤・服薬指導が行われるため、患者がお薬手帳を持参しなくても、過去の調剤歴などを調べて重複投与の有無などを確認することができます(ただし電子処方せんには病名と検査値のデータは含まれません)。また処方せんをデータとして保存したり、薬剤師に求められる医師への情報のフィードバックをオンライン上で行ったりすることも可能になるのです。

 

このように電子処方せんの導入は、ペーパーレスが進んで調剤業務を大きく効率化させることが期待できます。医療情報の電子化や一元化が進む大きな流れのなかで、患者にとっても医療従事者にとっても大きなメリットがあります。

Amazonが狙うのは電子処方せん導入のタイミング

日本における電子処方せんの導入は、何度も議論されてはきたものの施行には至っていません。

 

しかし現在、厚生労働省はすでにスタートしているオンライン資格確認システムやマイナンバーカード制度などの既存インフラを最大限に活用しつつ、デジタル化を通じた社会保障の充実を進めています。デジタル化を通じた社会保障の取り組みとして、患者や全国の医療機関が薬剤情報や手術歴、透析歴などの情報を確認できたり、患者自身がパソコンやスマートフォンで保健医療情報を閲覧できたりする仕組みの構築を進めているのです。

 

このようななかで処方せんの電子化についても取り組みが進んでいます。マイナンバーカードの普及がなかなか進まないことなど壁はあるものの、2023年には運用がスタートする見込みです。

 

しかしこの電子処方せんの導入は、Amazonが日本の薬局市場に参入する絶好のタイミングでもあります。処方薬の購入には処方せんが必要となり、現在アメリカにおいてAmazon薬局では医療機関から、もしくは自分でAmazonに処方せんを送信する仕組みになっています。現在の日本の仕組みでは処方せんの原本を必要とするため、Amazon薬局はその機能を発揮することができませんが、この障害が処方せんの電子化によって取り払われることになります。つまり、日本における処方せんの電子化はAmazonにとっては千載一遇のチャンスなのです。

 

 

渡部 正之

株式会社メディカルユアーズ 代表取締役社長、薬剤師

 

※本連載は、渡部正之氏の著書『ロボット薬局 テクノロジー×薬剤師による薬局業界の生き残り戦略』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

ロボット薬局 テクノロジー×薬剤師による薬局業界の生き残り戦略

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渡部 正之

幻冬舎メディアコンサルティング

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