(※写真はイメージです/PIXTA)

介護業界と聞いて、どんなイメージを抱くでしょうか。恐らく多くの人が、いわゆる3K(給料が安い、きつい、汚い)を想起し、あるいは清貧であることを望むのかもしれません。高浜敏之氏(株式会社土屋 代表)は、「介護業界にはびこるルサンチマンカルチャーが人手不足解消の阻害要因」だと語り、今必要とされているのは、介護業界のイメージそのものを変え、若者の参入をうながす対策だと指摘します。

年収800万円以上も狙えるキャリアアップ制度を

当社は創業以来、会社の規模の拡大に邁進してきましたが、その主たる目的は介護難民問題の解決です。日本中、どこででもサービスを提供できる環境を作ることを第一義としていますが、二次的な目的として、組織のスケールに伴うキャリアアップの推進があります。

 

組織が大きくなるにつれ、数名の従業員で管理を賄うフラットな体制から、取締役会や監査役会が創設されるというように垂直構造へと変化します。そうすると、キャリアアップが可能となり、介護業界でも800万以上の収入を得るハイクラスが生まれます。

 

当社では、全国のブロック単位の広域マネジメントを担う立場であればすでにハイクラス層に位置していますが、社の規模が拡大するにつれポジションも増えることから、今後もどんどん所得の高い人を増やすことができます。

 

これがすなわち、「介護は経済的に貧しいけれど、心が優しい仕事」といったイメージを打ち壊すことにもなります。

 

介護業界に求められているのはこの点です。それに付随して、高級車に乗ったり、ハイブランドを着たりするのもまたよし、とする文化が形成される。「記号消費」を礼賛するつもりはありませんが、要は普通の業界にするということです。

 

やはりキャリアアップが可能で、高収入も得られると、そこに目を向けて飛び込んでくる人もいるはずです。そして、多くの人が集まってくれば組織がスケーリングされ、利用者のニーズにも応えられ、介護難民問題が解決するという好循環が生まれます。

基本給アップの実現には「政府の後押し」が肝要

当社はキャリアアップを推進していますが、もちろん、ベースアップにも重きを置いています。当社では、常勤スタッフの平均月収は約35万円、常勤以外のスタッフを含めた平均月収は約24万円と、介護業界全般からは高めの設定ですが、業界自体の給与額は他業界に比べて低いと言わざるを得ません。

 

ただ、ベースアップに必要な原資はキャリアアップと桁が違います。これが労働集約産業の特徴ですが、介護士の給与を月1万円上げるとなると、当社では数千万円のコストがかかります。そのため、安易にベースアップを図ると経営危機が訪れる。最適解を導き出すには、ここのバランスが重要です。

 

また、ベースアップにはもちろん、DX化などで経営効率化を進め、無駄を排除するなどの企業努力が必要ですが、当社で今回ベースアップが図れたのは処遇改善加算特例交付金といった国の施策があったからこそです。やはり政府の後押しが必要なのです。

 

具体的には、「報酬単価を上げてもらうこと」です。そのためにも、介護事業者が連携し、オピニオンを形成して、政府に働き掛けていくことが重要です。やはり、政府に応援してもらえるようなコミュニケーションを取っていかなければなりません。

 

また国としても、再分配で財源を低所得層・中間層に行き渡らせるほうが経済が回りやすくなるのではと思っています。ワーキングクラスはぎりぎりの生活を送っているので、自分の生活を少しでも良くするために、美味しいものを食べに行ったり、ちょっといいものを買ったりですね、消費が活性化されて経済も活発化します。高所得者では使い切れないなどで預貯金に回る率も高いとされますが、低所得者は収入があれば使います。以前の私のようにですね(笑)。

 

とはいえ、現実的には超高齢化社会を迎える中で、国としても予算を膨らますわけにはいかないので、報酬単価の大幅な引き上げはかなり厳しいとは言えます。介護業界の不可逆的な流れとして、いわゆる淘汰の原理がすでに動いていますが、今まさに一定規模以上のところしか生き残れなくなる事態に直面していると思います。

 

その現実を前にして我々事業者が為すべきは、より大きな企業になるということです。大規模事業所であれば、報酬単価が上がらなくても効率的に運営できるので倒産はしませんが、小規模事業所は単価が上がらないとつぶれてしまう。

 

しかし、介護業界を支えているのは圧倒的に小規模事業者です。彼らが清貧の価値観を内面化しながら、日々地域に暮らす人々を助けていることで社会が回っている。小規模事業者が生き残れない環境は理不尽ですし、現状がたとえそうであっても、小規模事業者には何らかの補助制度が設けられてしかるべきです。

 

また事業所の倒産は介護難民の増加に直結するので、深刻な社会課題とも化します。それを防ぐためにも、M&Aなどを通じて、小規模事業所が倒れる寸前で救い上げることは必要だと考えます。

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