(※写真はイメージです/PIXTA)

がんがわかって切ったり抗がん剤の治療を受けると、さらに体力が落ちます。免疫力も低下していろいろな病気にかかりやすくなります。治療と放置、どう考えればいいのでしょうか。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『老人入門 いまさら聞けない必須知識20講』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

いざっとなったらどうするかを考える70代

■高齢になるとがんは誰にでもある

 

日本人の死亡原因でいちばん多いのはがんです。高齢になればいろいろな病気も出てきますが「がんにだけはなりたくない」というのがほとんどの人の本音でしょう。

 

がんが恐れられるのはほかの病気に比べて致死率が高いこと、手術や抗がん剤などの治療による身体へのダメージが大きく、たとえ治療がうまくいっても身体の衰弱が激しいからでしょう。とくに高齢者は、ただでさえ体力が落ちていますから、消化器系のがんの場合は栄養補給ができなくなると見る影もなくやせ衰えてしまうというイメージがあります。しかもしばしば再発や転移が起こります。退院しても安心できないのです。

 

がんそのものは高齢になれば誰にでも発生します。できそこないの細胞がしだいに大きくなっていくのががんですから、老いていくことは身体の中にがんを飼い慣らすことでもあるのです。これも高齢者の死後の解剖結果を毎年100人ぐらい目にして気がついたことですが、85歳を過ぎた人で体内のどこにもがんがないという人はいませんでした。がんは認知症と同じで老化現象の一つといってもいいのです。

 

ただ、老化現象ですからゆっくりとしか進みません。高齢になってからのがんは進行が遅いのです。手術や治療によって衰えた身体に大きなダメージを与えるよりは放っておいたほうが長生きできるというケースが多いということです。

 

■70代ががんの治療と放置の境目

 

問題はその境目をどの年代に置くかということです。まだ体力もあり、仕事への復帰を望む世代でしたら、がんを治療して体力も回復させ、仕事に戻ることも可能です。40代50代の中年世代でしたら、検診を受けてがんの早期発見ができれば治療によって残りの人生をまっとうすることもできます。

 

もちろん個人差はありますが、私は70代がその境目だと考えています。

 

なぜ70代なのか?

 

まだまだ元気でやりたいことがいくらでもあるからです。

 

同時にはっきりとした老いも忍び寄っています。かつてのような体力も筋力もありません。がんがわかって切ったり抗がん剤の治療を受けると、さらに体力が落ちます。免疫力も低下していろいろな病気にかかりやすくなります。そうなってしまうと、もうやりたいことのほとんどを諦めるしかありません。たとえ命は長らえても、体力も気力もなくして、寝たきりの生活になるかもしれません。その可能性が高いということです。

 

「でも放置したら死んでしまう可能性が高い」

 

あなたはそう考えるでしょう。

 

がんは怖い病気というイメージがありますが、高齢になれば誰でも身体の中に飼っているように、それほど凶暴な病気ではありません。痛みや違和感を感じて診察を受けたらがんが見つかり、しかも末期がんだったというケースがしばしばあります。これがどういうことなのかといえば、初期のころならほとんど痛みもなく、しだいに大きくなってもう治療が難しい状態になるまで本人は何の自覚もなくふつうに暮らしていたということでしょう。

 

一般にがんは1センチくらいの大きさになるまで発見されません。その大きさのがんが検診で見つかれば早期発見ということになります。でも1センチの大きさになるまでに、最初のがん細胞ができてから10年くらいの時間が経っているものです。


 
70代をがんを切るかそのままにするかの境目とするのには、異論もあるでしょう。その人の人生観の問題でもあります。手術や治療で身体が衰弱し、生活の質も落ち、やりたいことが何ひとつできなくなっても命だけは長らえたいと考える人がいても不思議はないし、それもひとつの生き方になってきます。

 

でも放置してもすぐに死ぬわけではなく、いままで通りに暮らせる時間が何年か続くのだとしたら、そこで悔いのない人生をまっとうするという生き方もあります。

 

自分ならどちらを選ぶか、いたずらにガンを恐れるだけでなく、「いざとなったらどうするか」を考えることも70代になったら必要ではないかと思います。

 

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本連載は和田秀樹氏の著書『老人入門 いまさら聞けない必須知識20講』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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