名古屋にある不動産会社の営業マンは、実績を積み、若くして社長に就任。真っ先に着手したのは、3つの社内改革でした。それは、CI(コーポレートアイデンティティ:Corporate Identity)の導入、決算期の変更、業績の上がっていた不動産雑誌部門の独立です。なかでもCIは当時の中小企業として画期的な試みでしたが、どのような意図があったのでしょうか。

CI導入で、社員一人ひとりに会社の理念を浸透

私が社長就任するに当たって、会長には社名を漢字からカタカナに変えたいと伝えていました。

 

10年以上使用してきた社名「日正」は「にっせい」と呼び間違えられることが多く、時々保険会社と混同してしまう人もいて、なにかと不都合があったからです。

 

会長からの了解を得たうえで、私は社名を「ニッショー」に変更し、企業カラーやシンボルマークの統一に着手しました。これはCIの手法として学んだことを実践したのです。

 

CIを導入するに当たり半年がかりで調査や研究をし、今の社名やロゴマークを1984年4月に制定しました。

 

今となっては多くの会社で導入されているCIですが、80年代半ばは大企業くらいしか導入していませんでした。中小企業で本格的にCI導入したという点では、かなり先進的だったのではないかと自負しています。

 

新たな社名・ロゴでの船出を機に、当時82名いた全社員をホテルに招いて祝賀イベントを行いました。私は新社長として壇上に立ってCIの目的と意義を宣言し、新生ニッショーのスタートをみんなで祝ったのです。

 

大々的にセレモニーを開いたのは単なる祝賀の意味ではなく、社員一人ひとりのなかに会社の理念やビジョンを浸透させるためです。インパクトのある形でCIを明示することで、社員の頭と心に強くインプットすることができます。

 

その後も社外向けのPRだけでなく社内でも数回の研修を行い、CIへの理解を繰り返し説きました。そのとき社是や社訓も一新し、今に続く「お客さま第一主義」を掲げたのです。

繁忙期と決算期をずらし、それぞれの業務へ注力させる

2つめの改革は、会社の決算期の変更です。私たちの会社は創業時から決算期を3月20日締めとしてきましたが、この時期は春の入居シーズンの最中で各支店が1年で最も多忙なときです。

 

創業時より支店が増え、事務量も大幅に増加していたため決算期の社員はオーバーワークとなってミスが起きやすくなります。また、次年度の事業計画を練るにも十分な時間が取れません。結局、自分たちに余裕がないと入居者にもオーナーにも100%のサービスをすることができないのです。

 

そこで1985年度は決算を半期の9月20日で締め、次年度以降は9月21日からのスタートと改めました。決算期を半年ずらしたことで春は入居者対応に集中できるようになり、決算期の事務処理もおちついてすることができるようになりました。

編集企画課を独立させ、出版社として専門特化

3つめの改革は1985年10月、「アパートニュース」の編集部門を本社から切り離し、新しい会社(アパートニュース出版株式会社)として独り立ちさせました。会社化した理由は、業務の専門化と事業内容の明確化をするためです。

 

アパートニュース出版は「アパートニュース」の出版・販売、その他の広告制作・広告代理業務という広告全般を取り扱う専門企業としたのです。

「賃貸住宅情報誌」が管理事業部まで発展させたワケ

この頃になると「アパートニュース」の効果は賃貸仲介業の活性化のみならず、管理事業にも波及していきました。

 

管理事業部門の事業規模は賃貸仲介部門よりかなり小さくスタートしたのですが、この頃には各支店から管理物件の案件が増えてきて、3つの営業所(岐阜営業所、天白営業所、名古屋西営業所)を出したのです。この1980年代半ばの時期が管理事業部にとって自らの殻を破る時期であり、その後は失速することなく発展していくこととなりました。

 

現在は愛知、岐阜、三重県下に29の営業所網があり、合計260名の社員がいます。管理戸数は9万戸にもなりました。また、5カ所のSO営業所(サテライト・オフィス拠点事務所)を有し、24時間対応サービスで入居者をサポートしています。また、契約に応じて入居者の悩みや健康上の困りごとへのアドバイスを行うサービスも利用できるシステムを設置しています。

 

 

加治佐 健二
株式会社ニッショー 代表取締役社長

 

賃貸仲介・管理業一筋50年 必勝の経営道

賃貸仲介・管理業一筋50年 必勝の経営道

加治佐 健二

幻冬舎メディアコンサルティング

メーカーから転職して1976年に28歳で営業職として入社し、充実した日々を送っていた筆者。 その矢先、突然社長と常務から呼び出され「東海エリア初の賃貸住宅情報誌の創刊」を命じられたのです。 そして右も左も分からな…

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