(画像はイメージです/PIXTA)

予期せぬ別れに直面したとき、人は何を思い、どう乗り越えるのか。書籍『もう会えないとわかっていたなら』(扶桑社)では、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など、現場の第一線で活躍する専門家たちから、実際に大切な家族を失った人の印象深いエピソードを集め、「円満な相続」を迎えるために何ができるのかについて紹介されています。本連載では、その中から特に印象的な話を一部抜粋してご紹介します。

 

亡き夫から与えられた最後のチャンス

家族と暮らした懐かしい家に着いたとき、私を見つけた子どもたちが、駆け寄ってきます。

 

私は子どもたちを強く抱き寄せ、何度も謝りました。

 

その後、子どもたちとの暮らしが始まったとき、一人の男の人が訪ねてきました。夫の保険を担当している保険屋さんでした。

 

柔和な目をした保険屋さんは、穏やかな口調で、夫の保険金と遺産が子どもたちに相続されることを話してくれました。そして、そのお金は未成年の二人に代わって、私が管理をしなければならないのだと……。

 

私の年収の一〇年分以上もの大金です。私はとても怖くなりました。もし、子どもたちのお金を使い込んでしまったらどうしようかと、不安になったのです。

 

私が自分にあったことを話そうとすると、保険屋さんは「存じ上げております」と言って首を横に振りました。

 

「正直にお話ししますね」

 

そう言って、少し険しい顔をした保険屋さんは元夫側の親戚たちが、私に子どもたちの財産を管理させることに猛反対したことを教えてくれました。しかし、弁護士などの専門家に聞いても、私が管理者となることは変えられなかったのだそうです。

 

「実は私も親戚の皆さんと同じ思いでした。ご主人はどうして遺言を残しておいてくれなかったのかと残念でなりませんでした。財産の管理者は遺言で指定することができますからね」

 

もっともな話だと思った私は「そうですね」と返すことしかできませんでした。

 

「ただ、こう考えることもできます。ご主人は若くして突然亡くなったから遺言を残せなかったのではなく、あえて遺言を残さなかったのではないかと……」

 

言っている意味がよくわからず、私が黙っていると、保険屋さんが言葉を継ぎました。

 

「そうすれば、実際そうなったように、あなたが子どもたちの財産を管理することになります。それに、ご主人がもし遺言書を作成したとしても、あなたを管理者として指定したかもしれない。だって……」

 

保険屋さんは、そこで一度、念押しをするように私をのぞき見ました。

 

「だって、あなたは子どもたちの母親なのですから……」

 

勝手な思い込みですが、保険屋さんのその言葉に、私は夫から、もう一度信じてもらえたような気がしたのです。

 

あれから一五年が経ちました。あのとき預かったお金は子どもたちの進学の時にだけ使わせてもらい、彼らが成人した今は本人たちに管理をさせています。

 

夫が子どもたちに残してくれたお金は、子どもたちを守り、私を強くしてくれたのです。

 

本連載は、2022年8月10日発売の書籍『もう会えないとわかっていたなら』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございます。あらかじめご了承ください。

もう会えないとわかっていたなら

もう会えないとわかっていたなら

家族の笑顔を支える会

扶桑社

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