ウクライナ侵攻によって、より独裁者としての色を強めた現ロシア大統領のウラジーミル・ウラジーミロビッチ・プーチン。FSB(ロシア連邦保安庁=国内秘密警察、KGB第二総局〈防諜・反体制派担当〉の後継機関)時代には「死神」とすら揶揄されていたプーチンが、日本のある議員に見せた意外な素顔について、大統領就任前からプーチンを追っていた元外交官の佐藤優氏が紹介します。

「神の意志」で大統領に選ばれた、という思い

会談が終了し、日本側出席者が執務室を出る間際に、プーチンは「鈴木先生(ゴスポジン・スズキ)、ちょっと話がある」と呼び止めて立ち話をした。ここでの話は実は非常に重要だった。

 

「実は、できればのお願いなのだが、5月にロシア正教会の最高責任者アレクシー2世が訪日するのだが、その際に天皇陛下に拝謁できるように、鈴木先生のほうで働きかけてもらえないか。もし、迷惑にならなければということでのお願いだ」

 

「もし、迷惑にならなければ」という物言いは非常に丁寧だ。プーチンはアレクシー2世について、ロシアではローマ教皇のようにたいへんに重要な人だと説明した。そのうえで、来日時に天皇陛下とお会いいただくことの重要性を強調した。日本の国家のあり方、天皇陛下という方の重要性についてよくわかっている人だという印象をもった。

 

鈴木氏は「全力を尽くします」と約束した。鈴木氏は帰国後に外務省、総理官邸、宮内庁に働きかけ、天皇陛下とアレクシー2世総主教の会見を実現した。

 

ロシア人は信頼する人にしかお願いしない。

 

「鈴木氏はプーチンに気に入られた」と私は思った。諜報はいつも顔に仮面をつけて行う仕事だ。死神というのは、プーチンの仮面の一つに過ぎない。

 

会談から1年10ヵ月くらい経った後、このエピソードをゲンナジー・ブルブリス元国務長官(現・連邦院[上院]議員)に披露した。

 

ブルブリスは、ソ連末期から新生ロシアが誕生した時期にかけてエリツィンの側近を務めていた。

 

ソ連崩壊のシナリオも、1992年1月に開始された価格自由化を核とするロシアの資本主義化(「ショック療法」と呼ばれた)も、このとき国務長官だったブルブリスの策定した戦略だ。

 

ブルブリス「面白い。プーチンははじめ、大統領の権力をエリツィンから譲ってもらったと思っていた。その次に国民に選ばれたと考えた。しかし次第に、自分のようなKGBの中堅官僚が突然国家のトップになるのは、神の意思ではないかと考えるようになった。これはトップになる政治家に共通の要素だ。エリツィンにも神に選ばれたという思いがあったよ。だから教会の最高指導者とか天皇に独特の思いを抱くようになるんだよ」

 

 

佐藤 優
作家・元外務省主任分析官・同志社大学神学部客員教授

 

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※本記事は、佐藤優氏の著書『プーチンの野望』(潮新書)から一部を抜粋し、GGO編集部にて再編集したものです。

プーチンの野望

プーチンの野望

佐藤 優

潮出版社

ロシアとウクライナの歴史、宗教、地政学、さらには外務官僚時代、若き日のプーチンに出会った著者だからこそ論及できるプーチンの内在的論理から、ウクライナ戦争勃発の理由を読み解き、停戦への道筋を示す。 〈戦争の興奮…

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