「協調性」や「学力」を重視し、紋切り型の人材育成を目的とした戦後教育をいまだ色濃く引き継ぐ、現代日本の教育現場。社会に出てから必要な「独創性」や「問題解決能力」、「知識の運用」などの礎となる「主体性」の育成に重きを置かれない教育は、毎年新社会人が送り出されている社会全体にどのように影響を与えているでしょうか。世界中で多様な教育現場を視察し、独自に編み出した教育ビジネス構想を実現させるため、2015年にソニーグループ初の教育事業会社・株式会社ソニー・グローバルエデュケーション(SGE)を設立。現在同企業の取締役会長を務める礒津政明氏による著書『2040 教育のミライ』から、現代日本における教育の問題点とその改善策について解説します。
「Web3」で個人情報を本人が厳格に管理できる時代が
手始めに行ったのは、「デジタル成績証明書」の発行です。
しかし私たちを待ち構えていたのは、ブロックチェーン技術に対する世間の過剰なまでの敵視でした。技術的には何の問題もないにもかかわらず、「そんなよくわからないものに個人情報を託せるか」という感情論が巻き起こったのです。
あいにく、ブロックチェーン技術とは無関係の原因で暗号資産(金融庁により、2020年5月1日から「仮想通貨」から「暗号資産」へ呼称変更)の流出事件が起きていた時期でもありました。
しかし、それから5年ほどたったいま、時代が少し追いついてきた感があります。最近、世間では「メタバース」と「NFT」というキーワードが聞こえてくるようになっていますが、IT業界を席巻している「Web3」が、まさに私が構想する世界観そのものなのです。
Web3は、「非中央集権化されたエコシステム(生態系)を構築するインターネット技術」の総称で、2021年頃から話題に上るようになった新しい思想です。
簡単に言えば、Web3によって「個人データを本人が厳格に管理できる時代がくる」ということです。
そして最近では、弊社のブロックチェーン技術をJASRACの著作権管理に応用する実験が行われるなど、具体的な展開も見せています。一見教育とは無関係に見えますが、「著作物と著作権」の関係は、教育における「学習データと所有権・アクセス権」の関係と同じなのです。
さらに私たちにとって朗報となったのが、デジタル庁の肝いりでまとめられた「教育データ利活用ロードマップ」です。
2030年のあるべき教育の姿がかなり細かく描かれたものですが、私たちが当初から思い描いた構想に近い、大変魅力的なものになっています。デジタル庁による教育データ利活用ロードマップの資料がPDFで見られますので、興味のある方はぜひ検索してみてください。
礒津 政明
株式会社ソニー・グローバルエデュケーション
取締役会長
株式会社ソニー・グローバルエデュケーション
取締役会長
教育フューチャリスト
1975年、千葉県銚子市生まれ。
幼少よりコンピュータとプログラミングに親しみ、小学生の頃から数学、科学、電子工作、市場経済について独自の視点で探究する。同時に、銀行員から鮮魚店経営に転身し、趣味の油絵、水彩画、短歌、書道で全国紙にたびたび掲載される腕前だった父から商売の基本とデザインセンスを学ぶ。
2000年東京工業大学大学院修了後、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)入社。ソフトウェアエンジニアとして、ソフトウェア・ネットワーク・ウェブ関連の研究開発に携わる。2012年、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)に異動、新規事業育成に従事。
教育分野における独自のビジネス構想を実現させるため、2015年、ソニーグループ初の教育事業会社・株式会社ソニー・グローバルエデュケーション(SGE)を設立、代表取締役社長に就任。2022年6月より現職。ロボット・プログラミング学習キット「KOOV®」や体験型プログラミング教材「PROC™」などを展開しつつ、技術と思想面から教育分野にイノベーションを起こすべく邁進している。
ほかにもZ会奨学金選考委員、株式会社銚子電気鉄道 社外取締役などを務める。2019年に発売された『5分で思考力ドリル』(ソニー・グローバルエデュケーション著・学研)シリーズは、累計26万部発行のベストセラー。
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連載現代日本の教育における問題点とその改善策をズバリ解説