(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●資源価格は全般にウクライナ侵攻後上昇したが、その後は資源の種類により異なる価格の動きに。

●世界的に物価上昇、金融引き締め、景気減速という流れに、それぞれが落ち着くのは来年以降か。

●企業は個々に脱ロシアの事業展開へ、世界の株式市場の関心は各国・地域のインフレ抑制策に。

資源価格は全般にウクライナ侵攻後上昇したが、その後は資源の種類により異なる価格の動きに

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始してから、8月24日で半年が経過しました。しかしながら、ここにきて、ロシアは改めて軍事侵攻継続の姿勢を強め、欧米側も長期戦に備えるウクライナへの支援を相次いで表明するなど、事態の好転は見通せない状況です。この間、国際情勢は大きく変わりましたので、以下、世界経済や金融市場の動きを中心に、振り返ってみます。

 

3月7日付レポートでは、世界経済が時間をかけて、ロシアに依存しない新常態に移行していく可能性を考えました。その過程は【図表】にまとめた通りですが、項目ごとに現在の進捗状況を確認します。まず、資源価格はウクライナ侵攻後、全般に上昇しましたが、WTI原油先物価格は6月以降、上昇一服となりました。ただ、欧州の天然ガス価格(オランダTTF)は高騰が続いており、資源価格は一律、短期から中期に移行する流れにはなっていません。

 

(注)一般に予想される流れを図表化したもの。 (出所)三井住友DSアセットマネジメント作成
【図表】ロシアに依存しない世界経済の形成過程 (注)一般に予想される流れを図表化したもの。
(出所)三井住友DSアセットマネジメント作成

世界的に物価上昇、金融引き締め、景気減速という流れに、それぞれが落ち着くのは来年以降か

次に、物価については、資源価格の上昇を主因に、多くの国や地域でインフレが深刻な問題となりました。米国では、物価の上昇にピークアウトの兆しもみられますが、ユーロ圏では上昇が続いており、短期から中期への移行は、今しばらく時間を要するものと思われます。金融政策についても、主要国・地域の中央銀行は引き締めを行っており、中期への移行は来年以降となることが予想されます。

 

また、世界経済はウクライナ侵攻後、減速が続いています。国際通貨基金(IMF)は、世界経済の実質成長率見通しの下方修正を続けており、4月に2022年を4.4%から3.6%へ、2023年を3.8%から3.6%へ、さらに、7月には2022年を3.2%へ、2023年を2.9%へ、それぞれ引き下げました(いずれも前年比)。経済の持ち直しには、少なくともインフレ懸念の後退や利上げ頻度の低下が必要で、中期への移行は、やはり来年以降とみられます。

企業は個々に脱ロシアの事業展開へ、世界の株式市場の関心は各国・地域のインフレ抑制策に

また、企業については、ウクライナ侵攻後、脱ロシアの動きが顕著にみられましたが、その後もロシアに依存しない形での事業展開は、個々の企業で進んでいると考えられます。なお、ロシア向けの販売減や、ロシア関連の減損などによる業績への影響は、個別企業に限られた一方、資源価格の上昇による原材料費の高騰は、世界の主要企業にとって、広く業績圧迫要因となっています。

 

以上より、世界経済がロシアに依存しない新常態に移行するには、まだ相当な時間を要する見通しです。最後に、MSCI世界株価指数(ACWI)の動きをみておくと、6月中旬に年初来安値をつけた後、上昇に転じ、侵攻直後の不透明感は消化されたと思われます。そのため、世界の株式市場の焦点は現在、ウクライナ侵攻に起因するインフレに、主要国・地域の政府・中央銀行がどう対処するか、その政策の舵取りに移行していると推測されます。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『ロシアのウクライナ侵攻から半年…世界経済はどう変わったか?【ストラテジストが解説】』を参照)。

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

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