(※写真はイメージです/PIXTA)

近年、「老化」とは、遺伝子を取り巻く環境要因(エピゲノム)が劣化して起こる現象であることが分かってきました。つまり、エピゲノムがどのような影響を受けているのかを明らかにし、劣化しないようにコントロールできれば、老化はある程度コントロールできるということです。老化のコントロールは慢性疾患の発症リスクを低減するカギでもあります。今回は、エピゲノムがどのように調節・維持されているのか、劣化を防ぐためにはどうすればいいのかを見ていきましょう。※本稿は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師並びに株式会社イームス代表取締役社長・藤井祐介氏との共同執筆によるものです。

老化の原因、「エピゲノムの劣化」を防ぐには?

最近、老化を決めているのは遺伝子の障害ではなく、遺伝子の周囲を取り囲んでいる環境要因(エピゲノム)の劣化であることが分かってきました。

 

遺伝子はデジタル情報ですので容易には変わりませんが、エピゲノムはアナログ情報なので環境に応じて変わることができます。融通が利くとも言えますが、逆に環境の乱れによりエピゲノムが劣化するとも言えます。これが老化の原因であると最近になって分かってきたのです。

 

今回は、このエピゲノムがどのように調節・維持されているのか、劣化を防ぐためにはどうすればいいのかということについてお話ししていきましょう。

 

■NHKの特集でも取り上げられた「サーチュイン遺伝子」

サーチュイン遺伝子というのがあります。別名「長寿遺伝子」とも言われ、こちらのほうが聞かれたことがあるかもしれません。正確に言えば、サーチュイン遺伝子は長寿遺伝子の中の一つです。では、サーチュイン遺伝子とは一体どういう働きをするのでしょうか?

 

遺伝子(ゲノム)というのは、タンパク質の構造を記録した設計図のようなものです。サーチュイン遺伝子には、「サーチュイン酵素」というタンパク質の設計図が記録されています。このサーチュイン酵素も他の酵素と同じように身体の中の化学反応を助ける働きがあります。そして、エピゲノムが劣化するのを防ぐ働きがあるのです。

 

エピゲノムというのは、遺伝子を取り巻く環境のことを言います。どのタイミングで遺伝子のスイッチがオンになったり、オフになったりをするかを決めているのがエピゲノムです。エピゲノムが劣化すると、正しいタイミングでスイッチがオン、オフされなくなってくるわけです。

 

分かりやすく例を挙げましょう。一個の受精卵が分化してカエルになる場合を考えてください。どのタイミングで尻尾が生えるか、手足が生えるか、尻尾が退化するか、はすべてエピゲノムによって決められています。尻尾や手足になるのに必要なタンパク質の設計図は遺伝子に書かれていますが、設計図が読み取られるタイミングを決めているのはその周りの環境のエピゲノムということです。

 

そして、この設計図が読み取られるタイミングが、何らかの原因でずれた場合、尻尾が生える前に手足が生えてくるということが起こるかもしれません。これは極端な場合ですが、もっと小さな読み取りエラーが積み重なることで、老化は進みやすくなるのです。

 

■単なる「寿命を延ばすための遺伝子」ではない

サーチュイン遺伝子からできるサーチュイン酵素というタンパク質は、エピゲノムが劣化しないように見回っています。サーチュイン酵素にはエピゲノムの劣化を防ぐ以外にも、障害を受けた遺伝子を修復したり、身体の慢性炎症を抑えたりする働きもあります。まるで、総合防災センターのような役割を果たしています。

 

もしここで、外的な影響で遺伝子の障害が多く起こったり、身体に慢性炎症が起こったりするとどうなるでしょうか?

 

サーチュイン酵素は障害を受けた遺伝子の現場や炎症が起こっている現場に駆けつけます。このこと自体は、身体のバランス(ホメオスターシス)を維持する上で非常に重要なことです。しかしそうすると、これまでエピゲノムが劣化しないように見張りをしていたサーチュイン酵素が「人手不足」に陥ることになります。

 

サーチュイン酵素が、DNA損傷の修復や慢性炎症を抑えるために持ち場である遺伝子の周囲から離れると、その位置にあった遺伝子のスイッチが、オンになるべきなのにオフになったり、オフになるべきなのにオンになったりするように、遺伝子が読み取られるタイミングがずれ始めるのです。

 

これを学校の教室に例えると、周囲のクラスがうるさくて、それを注意しに行って先生が不在になってしまうと、そのクラスまでうるさくなるということです。

次ページ長寿遺伝子の活性化には「適度なストレス」が必要
自己治癒力を高める医療 実践編

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