老化のコントロールは慢性疾患リスクを低減するカギ
ここまでのところで、老化とは遺伝的に必然で決められたものではなく、遺伝子を取り巻く環境要因が劣化して起こる現象であることが分かっていただけたと思います。
つまり、この環境要因がどのような条件の影響を受けているのかを明らかにし、環境要因が劣化しないようにコントロールできれば、老化はある程度コントロールできるということです。
世の中には「アンチエイジング」をうたったさまざまな情報や商品が溢れていますが、根拠の乏しいものも多く見られます。遺伝子を取り巻く環境要因に影響を与えているのかどうかという視点から情報を見極めることはとても有用ではないかと思います。
■「老化」はさまざまな慢性疾患の最大要因
また、さまざまな慢性疾患も老化をベースとして発症することが分かっています。たとえば、老化との関係が一番はっきりとしている疾患にがんがあります。
がんは、死因別死亡率で見ると1981年以降ずっと1位を占めています(図表2)。
図表2を見ると、がんで死ぬ人が年々増えているように思えるかもしれません。しかし、実はこの図にはトリックがあるのです。
がんは歳をとるにつれて発症率が増えてきます。つまり、平均寿命が伸びれば伸びた分だけ、発症率が増え、当然死亡率も上昇します。
この寿命の伸びた分を補正した統計として年齢調整死亡率というものがあります。年齢調整死亡率は、集団全体の死亡率を基準となる集団の年齢構成(基準人口)に合わせた形で求められます(図表3)。
年齢調整死亡率で見ると、死因の1位であることに変わりはありませんが、年次推移では増えているどころか、2000年以降は減っているのです。
つまり、死亡率の推移で見ると、がんが年々増えているように見えるのですが、実は一番の要因はがん自体が増えているということではなく、寿命が伸びて高齢の人が増えたということなのです。
がんに限らず、動脈硬化が原因で起こる心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞などの慢性疾患も、年齢調整死亡率で見るとむしろ減少傾向にあります。
老化は、これまで考えられてきた「避けることのできない運命」のようなものではなく、遺伝子を取り巻く環境要因を整え劣化させないことでコントロールできる可能性があります。そして、老化をコントロールすることが、それに伴うさまざまな慢性疾患をコントロールすることにもなるのです。病気を早期発見・早期治療しようという予防的な考えではなく、根本的に慢性疾患が発症するリスクを減らす可能性が見えてきたと言えるかもしれません。
このことをシンクレア博士は以下のように表現しています。
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「色々な病気は老化の結果として起こる『症状』に過ぎない。老化こそが、色々な病気の正体であり、原因である。
がん、動脈硬化による病気、アルツハイマー病などの変性疾患。『老化』を治療しさえすれば、これらの病気は起こらなくなる。
老いは治療できる病気である」
(『LIFESPAN 老いなき世界』より)
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老化が死亡原因の上位を占める慢性疾患の一番大きな要因であることを考えれば、老化をコントロールすることは、慢性疾患のリスクを下げて健康に歳を重ねるために極めて重要なのです。これこそが本当の意味での「アンチエイジング医療」であると言えるのではないでしょうか。
次回は、どうすればこの環境要因を整えることができるのかということについてお話ししたいと思います。
小西 康弘
医療法人全人会 小西統合医療内科 院長
総合内科専門医、医学博士
藤井 祐介
株式会社イームス 代表取締役社長
メタジェニックス株式会社 取締役
株式会社MSS 製品開発最高責任者
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