(※写真はイメージです/PIXTA)

老後資金の問題が大きな関心を集めていますが、政府発表の統計を見る限り、致命的とまではいいきれない数字になっています。しかし、実情を詳しく探っていくと、同世代間において、学歴や就業先に大きく影響される「想像を超えた所得格差」が浮かび上がり、また、今後もそれを埋めることは容易でないことが明らかになります。

学歴差は「退職金の額」にまで反映され…

また、労働政策研究・研修機構によると、高齢期の生活の支えの一つである退職金について学歴による差が拡大しています。1989年に大卒を100とすると、現業の高卒は80でしたが、2018年では、75と約6%差が拡大しています※4。つまり、製造業に多い、現業職を担う高卒の人々の賃金抑制が起こっているといえます。

 

※4 労働政策研究・研修機構『ユースフル労働統計2021』ユースフル労働統計2021―労働統計加工指標集―|労働政策研究・研修機構(JILPT)(2022年4月11日入手)

 

この高卒と大卒の格差拡大について、立教大学社会学部助教の豊永耕平氏は、就業構造基本調査から労働者全体で追加検証しても年間収入からみた場合には専門学校卒を含む高卒と大卒の格差は確かに拡大傾向にあることが明らかになったとしています※5

 

※5 豊永耕平『季刊個人金融2021冬』「高卒と大卒の学歴間賃金格差は拡大したのか?」『個人金融2021冬』2021年、85頁。

 

更に、日興アセットマネジメントによると、デジタル革命を背景とした足元でのグローバル化は、製造業にとどまらずサービス業でも進み、途上国のヒトが母国を離れることなく、先進国の企業に雇われる「バーチャル移民」のようなケースも想定されます。この場合、企業は世界の安価な労働力を活かすことができますが、主要先進国ではサービス業従事者の割合が世界平均を2割程度上回っているだけに、労働者が国際競争に直面する可能性も考えられます※6

 

※6 日興アセットマネジメント「デジタル革命でグローバル化は新たな段階へ」rakuyomi_vol-1616.pdf(nikkoam.com)(2022年4月10日入手)

 

日本総研の安井洋輔氏によると、デジタル化による雇用への影響は「システムコンサルタント・設計者」が+38万人、「ソフトウェア作成者」が+14万人、「その他の情報処理・通信技術者」が+8万人ほど増加するなど労働需要の増加はICTサービスの専門家に集中するといいます。

 

しかし、「自動車運転従事者」が▲11万人、「販売店員」が▲10万人、「ビル・建物清掃員」が▲9万人、「総合事務員」と「会計事務従事者」がともに▲6万人、「警備員」と「自動車整備・修理従事者」が▲5万人減少するなど「運輸・郵便」や「商業」、「対事業所サービス」に特徴的な職業を中心に、労働需要が下振れすると考えられています※7

 

※7 安井洋輔「デジタル化による雇用の構造変化」JRIレビュー2021 Vol.2, No.86、2021年、2-29頁。https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/jrireview/pdf/12368.pdf(2022年4月16日入手)

 

こうして、経済のグローバル化、デジタル化により、国内の失業が関連分野も含めて広く発生し、非正規雇用への置き換えが起こります。また、製造業の求人が減少するために賃金が下落します。一方、高度な知識集約産業や大企業の正社員には賃金の低下は起こりません。そこに所得格差が拡大すると考えられます。

 

このように、高齢者の格差と貧困の問題の根底には、本人の努力ではどうすることもできない少子高齢化、経済のグローバル化、デジタル化という歴史的社会変動があり、国の政策として取り組むべき課題があるといえます。

 

 

藤波 大三郎
中央大学商学部 兼任講師

 

 

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