(写真はイメージです/PIXTA)

企業にとって重要な顧客情報などのデータの消失は、事業にさまざまな悪影響を与えるだけでなく、損害賠償請求訴訟などにも発展しうる大きな事故です。Authense法律事務所のもとには、さまざまな相談が届きます。今回は、約5億円の損害賠償を求める民事訴訟を例に、企業法務に詳しいAuthense法律事務所の西尾公伸弁護士が解説します。※守秘義務の観点から、実際の相談内容と変えている部分があります。

ITベンダーとの契約で注意すべきこと

データをクラウド上で保存する際には、そのITベンダーとの間で契約を締結したり、提示された約款を承認したりする手順を踏むことが一般的です。

 

この際、契約条項によく目を通さないまま契約をしてしまうケースもあるのではないでしょうか? しかし、企業の大切なデ―タの保管を依頼する際にはその契約条項を読み込むようにしてください。

 

契約は、問題が起きない限りあまり意識することはないかもしれません。しかし、いざ問題が起きた際に初めて契約条項を熟読し、その時点で落とし穴に気づくのでは遅いのです。

 

主に注意すべき点として次の3点を紹介しますので、契約時の参考としてください。

 

【免責事項を確認する】

ITベンダーの作成する契約書や約款には、免責条項が定められていることが一般的です。

 

免責条項とは、たとえば次のような一文です。

 

「当社は、データの破損・紛失に関して一切の責任を負いません」

 

この条項が定められていたからといって、ITベンダーに故意や重過失がある場合まで実際に免責されるとは限りません。

 

しかし、このような条項がある以上、ITベンダーに故意又は重過失がない場合には責任を問えない可能性は低くありませんので、免責事項については契約時にきちんと確認しておくようにしましょう。

 

とはいえ、免責事項に納得ができない場合であっても、契約条項を変更することが現実的に困難であるケースも多いでしょう。

 

そのため、万が一データを消失させられても責任を問えない可能性を踏まえ、自社でもバックアップを定期的に取っておくなど、自己防衛策を強化する方向で検討することも一つの方法です。

 

【損害賠償についての規定を確認する】

仮に損害賠償を請求できる場合であっても、損害賠償額の上限を定める条項が入っていることがあります。

 

たとえば、次のような一文です。

 

「当サービスの利用に関し当社が損害賠償義務を負う場合の損害賠償金額の上限は、契約者の月額利用料の12ヵ月分に相当する金額とします」

 

このような損害賠償額の予定条項が入っていても、ITベンダーに故意又は重過失が認められる場合や、定められた金額が実際の損害と比べてあまりにも低廉である場合は、定められた上限額を超えて損害賠償請求が認められる可能性もあります。

 

しかし、データの消失は目に見えるモノの紛失と異なり、その損害額の算定が容易ではないことが一般的です。そのため、結果的に契約に定められた額までしか賠償を受けられない場合もあるでしょう。

 

こうした条項についても、契約締結前に確認をしておいてください。

 

【契約終了時のデータの取り扱いを確認する】

契約終了時のデータの取り扱いについての条項も確認しておきましょう。

 

クラウドサービスには、契約終了後一定期間はデータが保存されるものと、契約終了にともない即座にデータが削除されるものがあるためです。

 

仮にクラウドサービスの契約更新を失念し、即座にデータが削除されてしまった場合、自社でバックアップの保存をしていなければ一切データが復旧できないというケースさえありえます。

 

契約の更新を忘れないよう契約の管理をするのはもちろんのこと、契約が終了した際の取り扱いについても確認しておくとよいでしょう。

 

まとめ

データ消失事故は、どの企業でも起こりうるとても身近なトラブルです。消失したデータの種類によっては、長期にわたって事業が中断してしまう可能性もあります。万が一の際に備えて、定期的なバックアップなど対策をしておきましょう。

 

また、データの管理をクラウドサービスなどへ委託する際には、その契約内容もきちんと確認をしてください。

 

とはいえ、自社のみですべての契約上のリスクを見つけ、検討することは容易ではありません。事故が起きてから後悔することのないよう、あらかじめ弁護士に契約条項を確認してもらい、リスクの把握をしておくことをおすすめします。

 

 

西尾 公伸

Authense法律事務所 弁護士

 

 

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本記事はAuthense企業法務のブログ・コラムを転載したものです。

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