ホテルオークラ東京本館、川井家住宅…建物の新陳代謝が激しい日本「文化財消失」の背景にあるもの

ホテルオークラ東京本館、川井家住宅…建物の新陳代謝が激しい日本「文化財消失」の背景にあるもの

日本では、今日も各地で大規模な開発が進み、新たな建築物が建設されている一方、古くからの歴史ある建物が取り壊され、失われています。歴史ある建物は、保存だけではなく活用することで、地方創生にもつながる可能性があるのです。本記事では、歴史的建築物の再生・活用を中心に活躍する一級建築士の鈴木勇人氏が解説します。

新築の裏で、歴史ある建築物が次々と失われている

新しい建築物が続々と生まれる一方で、古い建築物も急速なスピードで失われています。

 

東京の神保町にあった「旧相互無尽会社ビル」は、昭和4(1929)年に建てられたビルですが、シンプルでありながら重厚感のあるたたずまいは独特の存在感を醸し出していました。このビルはつい最近まで残っていました。

 

昭和4(1929)年に建てられ、その後も残っていたということは、太平洋戦争を「生き抜いた」ということです。戦時中、東京は60回以上の空襲を受けていますが、その戦火をくぐり抜け、昭和・平成、そして令和の時代まで存在し続けたことは奇跡のようにも思えます。しかし同ビルは令和2(2020)年に解体され、今は跡形もありません。解体の理由は新しいビルを建てるためでした。

 

同じ東京ですが、虎ノ門にあった「ホテルオークラ東京本館」は平成28(2016)年に解体されました。理由は建て替えです。

 

同ホテルが開業したのは昭和37(1962)年。2年後に開催される東京オリンピックに備えて、世界中の人が訪れても恥ずかしくないようなホテルをつくろうということで、当時、日本の第一線で活躍している建築家や工芸家が総力を結集してつくりました。

 

その後、日本を代表するホテルのひとつとして世界中のVIPから親しまれてきたことはよく知られています。今は亡きジョン・レノンやマイケル・ジャクソンも、お気に入りだったとのことです。

 

ホテルオークラ東京本館の解体が発表されたとき、国内よりも国外での反響が大きかったという事実があります。世界的に著名なデザイナーや建築家、ホテル関係者たちがこぞって反対を表明しましたが、その声は届きませんでした。

 

同ホテルは解体されたのち、令和元(2019)年に「ジ・オークラ・トーキョー」として新規開業しています。その翌年に行われるはずだった東京オリンピック2020も視野に入っていたと思えます。

 

また、京都の町並みを形成しているのは「京町家」と呼ばれる古民家ですが、近年ではその解体のスピードが速まっています。年間にしておよそ800戸が姿を消し、跡地にはマンションなどが建てられるケースが増えているのです。

 

平成30(2018)年には京都でもっとも古い京町家の一つといわれていた「川井家住宅」が解体されました。この京町家に残っていたもっとも古い柱は室町時代のものと伝えられています。跡地にはマンションが建つ予定とのことです。

残したくても残せない…保存にかかる「費用」の問題

一方、兵庫県尼崎市には明治33(1900)年に建設された「ユニチカ記念館(旧尼崎紡績本社事務所)」があります。尼崎市内ではもっとも古い洋風建築で、イギリス式煉瓦造りの二階建て。国の近代化産業遺産や兵庫県の景観形成重要建築物にも指定されていますが、令和3(2021)年時点で取り壊しの話が進んでいます。

 

ユニチカは明治期に創業した老舗の紡績会社で、東証一部にも上場している大手企業です。ユニチカ記念館は創業時の本社事務所ですから、同社としても「原点」を保存したい気持ちはあるはずです。しかし耐震工事に数億円の費用がかかることから解体を検討しています。

 

自治体である尼崎市も財政難から工事費のサポートは難しいという話です。尼崎市は人口およそ45万人の中核市。兵庫県内では4番目の人口規模を有しています。そんな自治体であっても数億円の工事費用の捻出が困難だという厳しい現実があります。

 

 

鈴木 勇人

ボーダレス総合計画事務所 代表取締役

 

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本記事は、2022年

地方創生は古い建築物を見直せ

地方創生は古い建築物を見直せ

鈴木 勇人

幻冬舎メディアコンサルティング

真の地方創生とは―― 福島県の復興を担ってきた建築家が示す、 伝統ある建築物の可能性とその活用法 日本の古い建築物が次々と取り壊されています。 経済効果を生まないという極めて短絡的なもので、スクラップ&ビルド…

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