(※画像はイメージです/PIXTA)

患者は継続受診時において、熟考的思考で検討しながらも、最終的には「家から遠くても長時間待ってでも、この医師がいい」と直観的思考を優先するという。これは医師への信頼からくる感情的な情報処理である。。※本連載は杉本ゆかり氏の著書『患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング』(千倉書房)の一部を抜粋し、再編集したものです。

家族や身近な人の評判は説得力ある情報源

(2)フェイズ1:私をわかっている人のすすめなら安心(熟考的思考)

 

診療所の初回受診先選択では、【紹介・評判】、【物理的条件1】が抽出された。第1 に、患者は熟考的思考により情報処理を行い、他者の評価や経験からくる【紹介・評判】を意思決定に活用していた。この他者は情報の信頼性を高めるため、自分を理解している身近な人からの直接的な情報に限られている。

 

ネットワーク理論では、家族や親友などの強いつながり(強い紐帯)によるクチコミは、購買の意思決定に影響力を持つことが指摘されている(Brown& Reingen, 1987;杉谷,2009)。山本(2002)は、医療機関の規模が一定の場合、近隣の医療機関の中で『評判』が最も良いものを選択することは、合理的な選択方法であることを報告している。

 

尾沼ほか(2004)は、乳がん患者の調査において、病院受診の決め手は信頼のおける他者からの薦めであることを示している。Simonson and Rosen(2014)によると、意思決定に重要なことは探索により利用体験をつかむことであり、今や少し調べれば消費者の体験する製品やサービスの質である絶対価値に近づける。この絶対価値に頼ることで、消費者は平均的より的確な判断が下せる。また、人間は意図的に情報を探すと、その情報を尊重し有効活用したくなることを主張している。

 

本研究でも、信頼性が高い家族や身近な人の評判は、説得力のある情報源であった。患者は、身近な人の利用体験を含めた絶対価値である評判を自主的に収集し、熟考的に検討していた。その結果、その情報を尊重して意思決定を行っていたことが推測できる。したがって、慢性疾患患者の診療所選択は病院受診の視点と類似しており、家族や身近な人による紹介・評判は、意思決定の重要な要因となっていた。

 

なお、本研究のファインディングとして、インターネット探索は、診療所の場所や概要の確認のためであり、選択のための情報収集ではないことが確認された。近隣の情報を知る、信頼できる身近な人からの利用体験を含めた絶対価値に関する情報収集と選択は、地域に密着する診療所選択ならではと言える。

 

第2に、初回の受診先を選択する場合、患者は熟考的な情報処理を行い、【物理的条件1】を選択していた。患者は症状から病気を想像し、身近な人に確認相談しながら、まずは治療に適した診療科を検討する。

 

ただし、医療のような専門性の高いサービスに生じる情報の非対称性の影響により、患者は、病名、治療法を正確に判断できない。自己の選んだ診療科が選択間違いであるリスクを排除するため、担保として医師が複数いる、または、複数の診療科を標榜するなどの『規模』を選択していた。

 

これは、自分の選んだ診療科が間違っていても、他の医師が代替する事を考慮した選択である。また、患者はMRI やCT、リハビリテーションなど『設備』の有無、医師の専門医の資格取得を示す『専門性』、自宅や職場からの『近さ』、『休日診療』、『診療時間』を判断材料として意思決定を行っていた。

 

尾沼ほか(2004)は、乳がん患者の病院選択では専門性が重要視され、がんの専門病院が選択されることを明らかにしている。山本(2002)は、医療機関選択において、物理的な距離の『近さ』は具体的な通院費用に加えて機会費用を低下させることができ、医療機関の情報収集も容易となることを報告している。本研究でも専門性や近さが重視されており、類似した結果となったが、新たなファインディングとして、診療所の規模が選択の意思決定に影響していることが示唆された。

 

第3に、一般的に意思決定では、困難に遭遇した場合、合理的で熟考的な思考が始動し、問題解決に役立つ緻密で的確な情報処理が行われる。熟考的な思考が動員されるのは、直観的思考では答えが出せない問題が発生した時である(Kahneman, 2011)。

 

本研究では、初回受診先選択であるフェイズ1において、患者は、熟考的な情報処理により情報探索を行い、【紹介・評判】と【物理的条件1】を選択していた。ただし、情報の非対称性により、患者は専門的な内容を判断することは困難である。そのため、自分が評価できる範囲内での合理的な情報を探っていた。

 

【物理的条件1】の『設備』や『専門性』は、医療機器の有無、専門医の取得、検査が可能かどうかであり、その質や必要性を判断しているものではなかった。これらの情報は、看板やウェブサイトなどによる探索が安易であり、自分で判断できることが考えられる。

 

したがって、熟考的な思考は、本来、分析的で複雑な論旨の妥当性を確認できると言われているが、患者は専門的な内容を判断できないため、熟考的思考でありながらも、自分が評価できるレベルの内容を収集し、合理的に情報処理を行ったことが推測できる。

 

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患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

杉本 ゆかり

千倉書房

「患者インサイト」とは、患者が心の奥底で考えている本音であり、医療に関する意思決定である。この患者インサイトを明らかにすることで、患者への情報提供や情報収集など、患者との効果的なコミュニケーション理解できるよう…

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