(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナの影響により、経営状態が悪化している医療機関が出てきている。今後は病院の統廃合や運営の引継ぎが相次ぐ可能性もあるだろう。筆者がお手伝いしている病院は、まさに他の医療法人から経営を引き継いだ施設だ。病院は、事業を譲渡すればすぐ運営状況が改善されるわけではない。病院をうまく回して、地域のニーズに応えていくためには、どのような取組みが必要なのか。

他の医療法人から引き継いだ「負債60億円超の病院」

筆者が勤務する医療グループ「ときわ会」は、もともと1つのクリニックからスタートしました。現在は約30の施設を運営していますが、そのうち3つは病院です。

 

これら3つの病院は、どれも新しく作ったわけではありません。他の医療機関の運営を引き継いできたのです。こういったケースでは、経営がうまくいっておらず、「なんとか引受け先がないか」と相談を受けるのが実情です。

 

筆者は、1ヵ月ほど前からこの中の一つ、磐城中央病院をお手伝いしています。病院の各部署のスタッフと満遍なく接し、調整しながら取組みを進める役割です。

 

磐城中央病院は、もともとは地域の別の医療法人が運営していました。この医療法人は、2018年に60億円を超える負債を抱えることとなり、民事再生法を申請していました。2019年からときわ会が経営を引き継いでいます。磐城中央病院の他にも、医療機関や介護施設などをいくつか運営していました。しかしながら、機能的な編成ができていなかったようです。

 

事業譲渡前には医療機関として、小名浜中央病院、磐城中央病院、磐城中央クリニックの3つがありました。磐城中央病院と小名浜中央病院は直線距離で500mほどですが、役割としては重複する部分がありました。また、磐城中央病院、磐城中央クリニックは隣接されているものの積極的な連携ができていない状況だったようです。「ハコモノ」には、多大な投資がなされたようでした。

「施設の内部事情」知らずして病床機能の再編は不可能

事業譲渡後は、既存施設や地域事情などを考慮し、グループ全体として機能が効率的に配置されるよう再編を進めています。現在のところ、小名浜中央病院は、「小名浜中央クリニック」として、コロナに特化した有床診療所になっています。磐城中央病院、磐城中央クリニックは統合され、「磐城中央病院」として稼働しています。

 

全体としての機能再編は状況に応じて続いていきます。これは、ある種、強権的に推し進める部分でもありますが、各施設が地域から求められている役割を果たすには、施設の状況に合わせた自主的な運営がなされる必要があります。「このような機能の病床をこれだけ配置する」などと決めたとしても、十分に稼働させられなければ意味がありません。

 

現在の磐城中央病院はまさにこの段階です。当初の目論見を達成しようにも、現場スタッフの力が集まらなければ成り立たないところまで来ています。現場に入り込んでいく必要がある段階なのです。

 

何人かのスタッフからは「振り回された一年だった」との声がありました。達成すべき姿を押し付けられてきただけで、内部の状況にはあまり目が向けられていなかったのかもしれません。

コロナ対応をきっかけに「院内事情」を把握

冒頭でお話した通り、筆者の役割は病院の各部署のスタッフと満遍なく接し、調整しながら取組みを進めることです。どのようにコミュニケーションを取っていけば良いかを把握するところからスタートです。今回は、コロナ対応が院内を把握するきっかけとなりました。

 

筆者がいわき中央病院に関わり始めてすぐ、スタッフ内にコロナ陽性者が発生しました。

 

ときわ会では、グループとしてのコロナ対策本部が設置されています。コロナの対応をどう進めるか、対策本部と密に連絡を取りながら進めることになりますが、その窓口を担当することになりました。

 

対策本部は常磐病院のメンバーが中心となっており、もともと常磐病院で仕事をしていた筆者にとっては気兼ねなく話せる関係性でした。「外来棟と入院棟、2つの建物の間でスタッフの行き来は控える」などといった話が本部からあると、それに伴う細かな調整について、磐城中央病院の内部から問い合わせが筆者に入るようになります。誰に連絡を回すとどのように情報が流れるか、把握するきっかけになりました。

 

各部署の地味な調整を担うことも、院内把握のためには良いきっかけです。

 

磐城中央病院では、感染対策のため、正面玄関にスタッフが立ち、体調の確認と検温を行っています。前述の小名浜中央クリニックでは濃厚接触者の行政PCR検査を実施していますが、近い場所にあることもあり、磐城中央病院と間違えてしまう事例もあり、安全な誘導のためにもスタッフが交代で立つようにしています。

 

前述のように外来棟と入院棟のスタッフが交わらないようにということになると、検温に立つスタッフも調整し直さなければなりません。ただ担当表を作るだけの非常に地味な作業ですが、こういった作業が後々に繋がります。

 

どこも人を出すのが苦しいのは当然で、結局は痛み分けになってしまうのですが、「なんとか対応するので言ってください」「これくらいであれば担当できます」「うちばかりおかしい」など、それぞれの反応からカラーがわかりますし、各部署の状況を聞くきっかけにもなりました。

現場で動けば、取組みを進める「抑えどころ」がわかる

こういったコロナ発生の対応をしていた一方、同時期には、いわき市の「感染拡大防止PCR検査」がスタートしました。いわき市は、5月中旬から、無症状だが新型コロナウイルス感染の不安がある市民を対象にした無料のPCR検査を実施することとしました。ときわ会がこれを受託することになり、磐城中央病院で実施することになりました。これもあちらこちらに話をするきっかけになり、関わりの回数が増えたことも効果的でした。

 

市との折衝を進めながら、病院内のどの場所でどのように行うか、モノをどのように準備するかを決めていかなければなりません。すでにPCR検査を担当していた看護部に教えてもらう話を手がかりに、誰がどこで何をしているか、モノがどのように流れているのかを実際に目で見るきっかけになりました。「初めまして…実はこういった取組みを行うのですが、検体のスタンドとラベルシールはこちらにあるでしょうか? 使ってもよろしいですか?」といった具合です。

 

新入職員よろしく、自分で各所にお使いに回ること、地味な作業を引き受けることで、抑えどころがわかります。現場に入って施設全体の取組みを推し進めるための、下地を作る近道なのです。

 

 

杉山 宗志

ときわ会グループ

 

 

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