相続税や贈与税に関連する裁判では、該当の財産が贈与されたものといえるのか、そして誰に帰属するのかに焦点が当たります。実際の裁判例や裁決例から、贈与の意義について見ていきます。※本記事は、『相続税調査であわてない 「名義」財産の税務』(中央経済社)より抜粋・再編集したものです。

贈与の意義について判示した裁決例

相続税・贈与税に係る裁決例では、贈与の意義について以下のとおり判示している(国税不服審判所平成20年4月8日裁決・TAINS F0-3-352)。

 

「相続税法第1条の4第1号及び同法第2条の2第1項は、贈与により財産を取得した個人が、当該財産を取得した時において国内に住所を有する者である場合には、贈与により取得した財産全部に対して贈与税を課する旨規定している。

この場合の贈与の意義については、相続税法上明確な定義はなく、民法第549条に規定する贈与をいうものと解される。そして、同条においては、贈与の効力は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方がそれを受諾することによって生ずる旨規定している。なお、双方の意思は、必ずしも書面により表示されることを要さず、他の証拠によってそれらの意思を証明し得れば足りるものと解されている。」

 

要するに、「贈与」は税法の固有概念ではなく民法の借用概念であり、民法の規定に従って税法上も解釈するのが基本であるということである。

 

また贈与の「時期」について裁判例では、以下のとおり判示している(東京地裁平成18年12月5日判決・税資256号順号10595)。

 

「書面による贈与については、契約の効力の発生した時点をもって財産の取得の時と解するのが相当であるが、書面によらない贈与については、契約成立の時点で一応所有権が移転するとはいえ、履行の終わった部分を除き、各当事者が撤回することができることからすると(民法550条)、このような時点で経済的利益が確定的に移転したとみるのは現実的とはいい難いから、履行の終了の時点をもって贈与税課税の対象となる財産の取得の時と解するのが相当である。」

 

要するに書面の有無によって贈与の時期は以下のとおり異なるということである。

 

●書面による贈与 ⇒ 契約の効力の発生した時点

●書面によらない贈与 ⇒ 履行の終了の時点

 

また裁決例では、「書面によらない贈与」の時期について以下のとおり示している(国税不服審判所平成6年10月4日裁決・裁事48集357頁)。

 

「民法第549条(贈与)は、『贈与は当事者の一方が自己の財産を無償にて相手方に与える意思を表示し相手方が受諾を為すに因りて其の効力を生ずる』こととされているので、一般的には、意思の有無によって贈与の有無を判定すべきであり、書面によらない贈与は、その履行が終わるまでは当事者がいつでも自由にこれを取り消すことができ、この場合の贈与の時期は、贈与財産の実質的な支配状況など具体的な事実関係に基づいて総合的に判定すべきであると解される。

そうすると、本件贈与は書面によらない贈与であり、かつ、贈与の当事者の一方である被相続人はすでに死去しているため、被相続人が本件贈与の意思表示をしたかどうかの判断は、具体的な事実関係に基づいて総合的に判定すべきであるところ、(以下略)」

 

これらから、名義財産に係る相続税の税務調査で問題となる「書面によらない贈与」の時期については、贈与契約の「履行の終了の時点」であると解することとなり、その時点の判定は「贈与財産の実質的な支配状況など具体的な事実関係に基づいて総合的に判定すべき」ということになるだろう。

 

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