赤字を垂れ流しながらも、なんとか操業を続けている企業が大量にあるのをご存じでしょうか。「毎月赤字なら、早く操業停止すればいいのに…」と考えてしまいますが、そこには一筋縄ではいかない、経営上の苦しい裏事情があるのです。ガソリンスタンドと居酒屋を例に、経済評論家の塚崎公義氏が平易に解説します。

商品価格は「コスト+適正利潤」で決定する

商品価格の決定には、さまざまな力が働くだけでなく、いろいろな事情も絡んできますが、普通は「コスト+適正利潤」によって決まります。

 

ガソリンスタンドについて考えてみましょう。ガソリン価格の場合、通常は「仕入れ値」に「コスト」と「適正利潤」を加えた水準に決まります。これより安い価格で売ると儲かりませんし、欲張ってこれより高い値段をつけると客がライバル店に逃げてしまい、赤字になってしまうリスクがあるからです。

 

数値例で考えてみましょう。あるガソリンスタンドの固定費が50万円だとします。販売数量は1万リットルだとします。1リットルあたり100円で仕入れたガソリンを160円で売ると、1リットルあたり60円の利益がでますから、これに販売数量を掛けると60万円の利益がでるように思われます。

 

これを「粗利益」と呼びます。しかし、実際の利益を計算するためにはここから固定費を差し引く必要があるので、残る利益は10万円です。

 

各社ともに仕入れ値等は似ているでしょうから、平和に10万円ずつ稼いでいる、というのが普通の姿でしょう。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

「操業をやめると赤字になる」部分=固定費に該当

もし仮に店が操業をやめても、従業員の給料は払う必要がありますから、その分だけ赤字になってしまいます。それだけでなく、ガソリンスタンドを建てたときの費用の減価償却費や銀行借入の金利なども、実際には赤字額に加わるはずです。

 

このように、操業をやめた場合に赤字になる分を「固定費」と呼びます。これを、ガソリンを売ることで取り戻し、黒字を稼ぐのがガソリンスタンドの仕事です。

 

上記の数値例では、1万リットルで50万円ですから、1リットルあたり50円の固定費がかかっている計算になります。つまり、仕入れ値100円と固定費50円に適正利潤10円を加えて160円で売っているという計算になっているわけですね。

操業を止めても「ずっと固定費が発生する」ので…

さて、あるときにガソリンの売り上げが半分になったとしましょう。5000リットルを160円で売ると、30万円の粗利益がでますが、ここから固定費を50万円差し引くと、20万円の赤字になってしまいます。この場合、企業にはいくつかの選択肢があります。

 

ひとつは操業をやめることです。「赤字なら操業を止めればいいのに」と考える読者もいるかもしれませんが、操業をやめても固定費はかかるので、むしろ赤字額は50万円に増大してしまうのです。世のなかには赤字でも操業している企業が多数ありますが、そうした理由があるのですね。

 

操業を止められないのなら、値上げをすればいいかというと、そんなことはありません。値上げをしたら客がライバルに逃げてしまうので、赤字はさらに増えてしまうでしょう。

 

もちろん、ライバルと共謀して値上げをする「カルテル」という選択肢はありますが、これは容易ではありません。ライバルにはカルテルを破るインセンティブがあるからです。カルテルについては拙稿『家電量販店「最安値宣言」のウラに潜む「ダークなメッセージ」』をあわせてご参照いただければ幸いです。

 

カルテルがむずかしいとなると、あとは値下げでライバルから客を奪うしかありません。そこで、160円の売値を159円に下げることにしましょう。ライバルの客も奪えるので、159円で1万リットル売れて、59万円の粗利が得られ、固定費を差し引いても9万円の利益が手元に残ります。

 

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