いま、弁護士や税理士などの士業は過渡期を迎えようとしています。「AIに仕事が奪われる」との声も……。しかし、士業のすべてなくなるわけではなく、人間にしかできない仕事がまだまだあります。AIやITなどの技術革新が続くなか、士業の仕事に付加価値をつける方法を税理士、公認会計士、心理カウンセラーとして活躍する著者が明らかにします。本連載は藤田耕司著『経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部を抜粋し、再編集したものです。

大谷翔平だけじゃない!士業が二刀流ビジネス

ホームページ制作をする行政書士と不動産事業を展開する司法書士

 

既存のお客様が抱えがちな課題に関しても、士業の発想の枠にとらわれずに課題を解決できるようになれば、経営参謀としての付加価値はより高まります。また、その課題を解決する商品やサービスを提供する事業を始めれば、ビジネスチャンスはさらに広がります。

 

たとえば、会社の設立登記を依頼されたお客様は、これから会社を作るにあたってさまざまなニーズを持っています。その一つがホームページ作成です。今の時代、ビジネスを始めるならホームページくらいは持っておきたいところですが、ホームページ作成のよい業者を見つけるのは決して簡単ではありません。

 

士業の枠にとらわれずに課題を解決できるようになれば、経営参謀としての付加価値はより高まるという。(画像はイメージです/PIXTA)
士業の枠にとらわれずに課題を解決できるようになれば、経営参謀としての付加価値はより高まるという。(画像はイメージです/PIXTA)

 

インターネットで検索しても多くの業者からどう選べばよいのかわからず、いまいちな業者に頼んで失敗したくないため、「信頼できる人を見つけて依頼したい」という強いニーズが存在します。そういったニーズをビジネスチャンスと捉え、会社設立登記の仕事を通じて信頼関係を築いたうえで、ホームページ作成の提案をしている行政書士もいます。

 

会社設立登記をされた方に、「ところでホームページは作成されますか?」と質問すると、多くの場合は「作成する」という返事が来ます。さらに「ホームページ業者はもう決まっていますか?」と質問します。「決まっていない」という答えが返ってくれば、ホームページ作成の提案が可能になります。ホームページ作成を受注した場合、制作ができる人を雇うか、ホームページの作成業者と業務提携して外注することで対応が可能です。

 

また、生前対策や遺言作成など相続関連の業務に携わる中で、不動産を売りたい、買いたいというお客様のニーズに触れる場合も少なくありません。ただ、そのようなニーズがあっても「信頼できる不動産屋の知り合いがいない」「知り合いの業者は相続に詳しくなさそうだ」という理由から、なかなか不動産の売買に着手できない人もいます。これをビジネスチャンスと捉え、別会社を作って不動産事業をしている司法書士もいます。

 

ホームページ作成にしても不動産売買にしても、士業の仕事を通じてお客様と信頼関係が築けている状態であれば、別のニーズに対する提案についてもある程度の成約率が見込めます。これには、「〇×士」という資格の信頼が追い風になることもあるでしょう。このようにお客様から信頼を得る機会があることがいかに貴重かは、士業の業務だけを行っているとなかなか気づけないかもしれませんが、これは士業ならではの大きな強みです。

 

二刀流のビジネスモデルで新たな市場を展開する

 

さらに可能性を広げるべく、士業の強みを活かして、既存のお客様だけでなく、新しいクライアントをゼロから開拓する事業展開もあります。

 

その展開では、私は「二刀流」の考えをお薦めしています。「AとBを組み合わせてABを作る」──これは新しいアイディアを生み出す基本的な考え方ですが、これによって生み出された「AB」は、単純にAとBを足したもの以上の価値を持つ場合があります。

 

士業の強みの4つ(「ある分野の専門家であること」「経営課題に関わる機会がある」「経営者と接点がある」「資格がある」)を挙げましたが、特に士業が持つ知識や経験は普遍的なものであり、BtoB、BtoCいずれの商品・サービスでも活用でき、そういった知識や経験を持つ専門家から安心して購入したいニーズは存在します。

 

たとえば、不動産を購入する際は、不動産しかわからない相手よりも、不動産と税金、法律もわかる相手に相談したいものですし、保険であれば、保険と税金、あるいは保険と相続がわかる相手に相談したいでしょう。M&Aであれば、M&Aに加えて法律、税金、許認可、知財に詳しい人に相談したいのはいうまでもありません。「AA業×BB士」という形で士業の専門知識と経験を活用すればその業種で新たな市場が見えてきます。

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経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事

経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事

藤田 耕司

日本能率協会マネジメントセンター

AIの利用が広がるにつれ、多くの士業が「定型的で単純な手続き業務はAIに取って代わられかねない」と危機感を強めています。 起業して新事業を始めたり、いち早くAIを取り入れたりするなど、業務の見直しに取り組む動きも出始…

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