2013年に中国・習近平国家主席が提唱した「一帯一路構想(BRI)」。沿線諸国・地域の期待を集める一方、プロジェクトをめぐる衝突や債務累積の懸念による否定的評価、はては主要国から政治的野望との警戒の声があがるなど、諸外国のBRIに対する受け止め方、評価は様々だ。今回のパンデミックを受け、中国がBRIをどう展開していくのか、関係各国が注目している。本記事では、BRIの今後の展開について、不確実要因を踏まえつつ、複数の論点から考察する。本稿は筆者が個人的にまとめたものである。

BRIのプロジェクトも、一部では進行の遅延が発生

新型コロナのパンデミックで必要な物資やヒトの移動が制限される中で、一帯一路構想(Belt and Road Initiative、BRI)のプロジェクトも一部進行が滞った。中国外交部が2020年6月に行った調査では、全プロジェクトの約20%が深刻な影響、30〜40%が一定程度の影響を受けた、と回答されている。今後、パンデミックはBRIの展開にいかなる影響を及ぼすか。パンデミックがいつ完全に収束するかなど、なお不確実要因が多いが、暫定的に以下のような論点が考えられる。

 

 資金面の影響 

 

BRIを打ち出した後、中国のBRI沿線諸国・地域への投資や新規工事請負額が中国の海外投資・工事請負総額に占めるシェアを見ると、下記図表1にあるように、基本的に上昇傾向にあるが、中国当局の当面の政策優先順位は打撃を受けた国内経済の立て直しにシフトすることが考えられる。特に資金繰りの悪化した中小零細企業への支援、医療・公衆衛生サービス部門の改善などが課題になっている。

 

(出所)中国商務部
[図表1]一帯一路沿線諸国・地域への非金融企業直接投資 (出所)中国商務部

 

これらの政策は、経済のレバレッジを下げる(デレバレッジ、債務膨張経済の是正)という大きなマクロ金融政策の方向の中で、国内で資金のひっ迫を招き、海外への資金フローを縮小させる方向に作用する可能性がある。中国内でのデレバレッジ政策に関しては、2019年5月、内蒙古の包商銀行が1年間の期限で公的管理に置かれるという事件が発生し(※1)、市場は、中国人民銀行(中央銀行)がこれを契機として信用リスクへの対応を大きく変化させ、中小金融機関の信用膨張を抑制し、デレバレッジを強力に進めるようになったと見ている。

 

※1 中国人民銀行が1年間の期限を迎えた2020年5月に発表したところでは、内蒙古財政庁や中国建設銀行などが主導して新たに設立した蒙商銀行(都市商業銀行)が包商銀行の拠点・業務を吸収。包商銀行大株主の明天集団創始者で大富豪の肖建華氏が17年に香港で消息を絶ち、汚職容疑で拘束されているとのうわさがあり、何らかの政治的背景があるとも憶測されている。
 

他方で、BRI関連融資で大きな役割を担う中国輸出入銀行と中国国家開発銀行など政策性銀行のBRI関連融資残高は2020年6月末2.8兆元(約4000億ドル)を超えたが(中国人民銀行主管中国金融出版社発行「中国金融」20年18期)、両行の総融資残高は各々4.14兆元(20年6月末)、11.71兆元(19年末)で、BRI関連融資を増やす余地は大きい(※2)。政策性銀行は中国当局の全面支援を受けており、当局の政策方針を反映し易い(『[連載]中国「一帯一路」プロジェクトの現状~膨大な資金需要とリスクへの対応』参照)。

 

※2 中国内のBRIの資金源としては、政策性銀行の他に、中国銀行と中国工商銀行を中心とする商業銀行がある。両行のBRI関連融資残高は不明だが、中国銀行は2015〜19年第一四半期累計1361億ドル、中国工商銀行は19年第一四半期までに累計1000億ドルを超える融資をそれぞれ承認(両行ウェブサイト)。

 

さらに、中国産業界は成長率の落ち込みによる国内の需要減退に伴う代替投資先として、BRI沿線諸国・地域はパンデミックで受けた経済的打撃を緩和する観点から、輸送・電力などの基礎インフラ関連のBRIプロジェクトへの期待を強める可能性もある。

 

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