「社長の教祖」と異名を持つ一倉定氏は経営者をよく叱った。叱られるたびに多くの経営者は目を輝かせた。社長の教祖は「世の中に、良い会社とか悪い会社なんてない。あるのは良い社長か悪い社長だけである。会社は社長次第でどうにでもなるんだ」と断言したという。なぜ、令和の時代に「一倉定」が注目されるのか。本連載は作間信司著『伝説の経営コンサルタント 一倉定の社長学』(プレジデント社)からの抜粋です。

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「あれだけ真剣に叱ってくれるのは一倉先生だけ」

「あそこで一倉先生に怒鳴られなければ、今頃ウチの会社はなかったかもしれない」

「いや~、あれだけ真剣に叱ってくれたのは、一倉先生だけですよ!」

「こっちが先生の血管が切れるんじゃないかと心配しましたからね~」

 

不思議なことに社長が集まると、自分のほうがもっと叱られた自慢大会になる。

 

社長の一言で「あんたに何も教えることはない」

 

長年、一倉先生が定期指導をしていた会社で、いつものように駅に社長が迎えに行ったときのこと。会社に向かう車中で、先月の課題の進捗の話になったが、全く進んでいない理由を社員のせいにして言い訳してしまった。

 

社長の教祖は言い訳、他責もダメだが、やりもしないで机上のリスクをあれこれ論ずる社長を一番叱っていたという。(※写真はイメージです/PIXTA)
社長の教祖は言い訳、他責もダメだが、やりもしないで机上のリスクをあれこれ論ずる社長を一番叱っていたという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

その日はあいにくの雨だったが、先生がいきなり語気を強め「車を止めろ!」と言った。そして、傘もささずに歩いて駅に向かって帰り始めたのである。驚いた社長は先生を車に乗せようと説得するが、「雨がなんだ! 軍隊の行軍に比べれば何ともない!」。やはり、戦前生まれは筋金入りである。

 

でも、この社長(現在は会長)は、「〝鬼倉先生〟は本物だ」と言って、生涯の師としてその後も指導を受け高収益企業を築いていかれた。

 

経営の勉強をしている社長は実のところ、さまざまな先生の勉強をしていて、比較的権威者の話、大会社に育てられた社長の話が大好きでよく聞いていた。

 

S社長が一倉先生に相談があるというので診てみると、明らかに身の丈を超えた過剰管理で経費倒れの状態だった。中堅企業でも「最小管理」で充分とする先生の組織階層の削減アドバイスに、「これは○○のやり方で……、こういう場合どうするんですか?」と重箱の隅をつつくような問答がなされた。

 

こうなると道は2つ。「当然カミナリ」と、もう1つ。先生がプイっと横を向いて、「人に話を聞いて実行する気がないなら、あんたに話すことは何もない」と黙ってしまう場合である。

 

ただし、目は鋭い三角であるが。

 

言い訳、他責もダメだが、やりもしないで机上のリスクをあれこれ論ずる社長を一番叱っていた。現状は厳しい業績なのに、変化を止めているのが社長本人であるから、まさに怒り心頭。

 

「やりもしないでぐちゃぐちゃ言うな!」と。

 

本気でない社長には、「一倉はあんたの相手をするほど暇じゃない!」と、さっさと席を立つのである。

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一倉定の社長学

一倉定の社長学

作間 信司

プレジデント社

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