昨年、日本列島を襲った台風15号と19号。国税庁は被害にあった方々を対象に「所得税の軽減措置=雑損控除」を公表しました。しかし雑損控除は非常に複雑で、不利益を被ってしまう場合もあります。そこで本記事では、雑損控除の適用にあたり、不利益な処理をしてしまわないように重要なポイントを見ていきます。

雑損控除の損失額は「資産の時価×被害割合」で計算

いよいよ2019年度の確定申告の時期となりました。

 

昨年は台風15号と19号で被害を受けられた方が多くいるでしょう。そのような方のために、以前に雑損控除の制度概要についてまとめました(関連記事:『台風被害者に税の特例…「所得税の軽減措置」活用のポイント』)。

 

雑損控除は非常に複雑な制度で、グレーな範囲も多い制度です。税務署に任せるだけではなく、自身でポイントを抑えるようにしましょう。

 

税務署に任せるだけでなく、自身でポイントを抑えよう。
税務署に任せるだけでなく、自身でポイントを抑えよう。

 

ポイント① 雑損控除の申告はいつまでできるか?

まずは、そもそも雑損控除の申告はいつまで行うことができるのでしょうか? 実は、期限後申告や更正の請求という手続きを行うことで、5年前まで遡って手続きを行うことができます。

 

具体的には、申告期限から5年間は手続きができます。つまり、2014年度以降の更生の請求であれば、2020年の3月15日(還付申告の場合には、2020年1月1日)までの間に手続きをすることで、雑損控除の適用を受けることができます。

 

なお、一度も確定申告を行っていない年度の申告をする場合には、期限後申告という手続きになり、一度確定申告を行った年度について雑損控除の適用をする場合には、更正の請求という手続きになります。

 

過去の雑損控除ができたのに、手続きをしていなかったという方は、まだチャンスがあるかもしれないので、確認してみましょう。

 

ただし、雑損控除の繰越控除については連続して確定申告をすることが要件となっており、一度でも申告をしてしまっていると、適用が受けられない可能性があります。

 

ポイント② 損失額の計算方法をおさえる…特に家財に注意!

雑損控除の損失額の計算は大まかにいうと

 

資産の時価×被害割合

 

で計算します。まずはこの資産の時価の考え方をおさえましょう。時価の計算方法は、「住宅」「家財」「車両」でそれぞれ異なるとともに、「取得価額が明らかな場合」「取得価額が明らかでない場合」で異なります。

 

特に家財の計算方法は取得価額が明らかであるか、そうでないか、によって大きく異なります。また、家財の取得価額が明らかでない場合には、下記の表に当てはめて計算をすることになります。

 

[図表1]家族構成別家庭用財産評価額

 

上記に当てはめてみるとわかりますが、40歳以上の夫婦であれば、家財の時価が1000万円を超えてきます。これだけの家財を持っている家庭はそうそうないのではないでしょうか? しかも、この金額は減価償却をした後の金額となります。

 

また、実際に自宅の家財をいつ頃にいくらで購入したか、という情報を残している方はほとんどいないのではないでしょうか?

 

家財の情報はわからなければ、上記の有利な計算をすることができます。その点を踏まえて計算をしてみましょう。

被害割合は合算することができる

ポイント③被害割合の考え方をおさえる…割合の合算とは?

まず、国税庁が公表している被害割合の表を見てポイントを抑えましょう。表は下記の通りです。

 

[図表2]被害割合表

 

上記の被害割合の判定にあたっては、「り災証明書」を参考にして行うことになっていますが、これはあくまで参考にするだけで、り災証明書の被害区分とは必ずしも一致しないことになります。これは国税庁が公表している下記の資料にも明記してあります。

 

東日本大震災により損害を受けた場合の所得税の取扱い
第2雑損控除(共通)
23「り災証明書」の必要性


問 雑損控除による還付申告書を提出するに当たって、「り災証明書」のような被害を証明する書類の提出は必要ですか。

(答)
「り災証明書」は、大震災により家屋に被害を受けた場合、その被害を受けた方が市区町村に被害の状況を申告した後、その市区町村がその状況を確認した上で発行されるものです。

この証明書には、例えば、り災害原因や、全壊や半壊などの家屋についての被害状況等が表示されていることから、損失額の合理的な計算方法の被害割合を判定する際の目安になるものです。

したがって、税務署では、申告書等を提出する際に「り災証明書」(コピーでも可)を添付していただくか、又は提示していただくよう、お願いしているところです。

しかし、津波による被害を受け、その方の住所地などから地域全域の建物等が全壊するなどその被害の規模や状況が明らかな場合にはご提示いただかなくても差し支えありません。

また、個々の事情により証明書を添付又は提示ができない場合には、被害の実情を十分お聞きした上で被害状況を判断することとしています。

(注)り災証明書に記載される被害の程度(証明内容)と損失額の合理的な計算方法における「被害区分」は一致するものではないことに留意が必要です。

たとえば、液状化被害の認定は、一般的に家屋の傾斜や基礎等の地盤面下への潜り込みの状況を基に行われますが、家屋に係る損失額の合理的な計算方法は、その家屋の主要構造部に損壊がある場合に利用できます。また、この計算における被害区分の判定においても、その被害の状況を十分お聴きして判断することになります。

 

損壊でいうと、「一部損壊」で被害割合5%、「半壊」で被害割合50%と大きく異なります。り災証明書の区分が一部損壊となっていても、上記表の半壊摘要欄の状況に合致しているようであれば、写真などの根拠資料を集めて、税務署に相談してみましょう。

 

またあまり知られていないことですが、上記表の損壊と浸水の被害割合はいずれか片方を当てはめるのではなく、両方該当する場合には、両方の被害割合を合算することができます。

 

こちらについても国税庁が公表している下記の資料に明記してあります。

 

東日本大震災により損害を受けた場合の所得税の取扱い
第3雑損控除における損失額の合理的な計算方法
21被害割合の考え方(損壊+浸水の場合)


問 住宅の一部が津波により損壊した上、浸水(床上30㎝・二階建住宅)しました。この場合、被害割合はどのように計算しますか。

(答)
被害の種類ごとに被害割合を加算していくため、一部損壊した上、海水による浸水(床上30㎝・二階建住宅)した場合は、

一部破損(5%)+床上50㎝未満・二階建住宅(35%)=40%

となり、40%がその住宅の被害割合となります。

(注)24時間以上の長期浸水の場合は、その割合にさらに15%を加算した割合となります。

 

上記のように被害割合の考え方は非常に複雑です。税務署でもわかっていない可能性が考えられますが、国税庁が公表している情報であれば、税務署でもその通りに処理しなければいけないはずです。

 

ポイント④ 雑損控除の適用は自分の家でなくても大丈夫!

これが最後のポイントです。自身が被害を受けていないから関係ないと思っている方がいたら気を付けてください。雑損控除は自分でなくても、同一生計の親族が被害に遭われていれば、適用をすることができます。

 

同一生計の親族とは、①総所得金額等が38万円以下(令和元年のケース)である、②生計を一にする親族、を指します。特に②の生計を一にする、とは下記のことを言います。

 

生計を一にする

日常の生活の資を共にすることをいいます。

会社員、公務員などが勤務の都合により家族と別居している又は親族が修学、療養などのために別居している場合でも、1生活費、学資金又は療養費などを常に送金しているときや、2日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には他の親族のもとで起居を共にしているときは、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。

出所:国税庁ホームページより

 

つまり、両親に対して仕送りをしているケースは同一生計親族に当てはまる可能性があります。ということは、仕送りをしている両親が今回の台風の被害に遭われていて、なおかつ年金生活をされているケースですと、同一生計親族にあたる可能性が非常に高くなります。その場合には、税務署または顧問の税理士の方に相談して見てください。

 

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