文字と音の対応が複雑な英語圏では、子どもたちに読み書きを教えるときに「フォニックス」というルールを覚えさせます。本記事では、就学前の子どもをバイリンガルに育てるために、親子でできる「ライティング」の習慣を紹介します。

英語の音とつづりのルールを示す「フォニックス」

文字を書くとき、子どもは自分の話す言葉と字を結び付けて書くようになります。日本語はひらがなと音がほぼ一対一の対応になっているので、「あ」と「さ」を覚えたら自分の頭の中にある音の知識と結び付けて「あさ」と書くことができるようになり、「り」と「ん」「ご」を覚えたら自分で「りんご」と書けるようになります。

 

しかし、英語は文字と音が一対一の対応になっているわけではなく、アルファベットを書けるようになっても、すぐにリンゴを「apple」と書けるようになるわけではありません。

 

英語圏の親や教師は、子どもにつづりを教えるときに「フォニックス」(Phonics)というものを使って教えます。フォニックスとは、英語の音とつづりのルールを示すもので、日本語のひらがなのようにはっきりした規則とはなりませんが、だいたいのルールを示すことができます。

 

フォニックスのルールを、子どもは例えば次のように覚えます。

 

apple(アップル)の「a」(ア)ball(ボール)の「b」(ブ)cat(キャット)の「c」(ク)chicken(チキン)の「ch」(チ)house(ハウス)の「ou」(アウ)ball、bird、bagなどの「b」が同じ発音だということは、聞いたり話したりすることができる子どもはすでにわかっているので、自分の頭の中にある音と照らし合わせ、「b」という文字をそれに当てはめることができるのです。

 

catの「c」は「k」と同じ音になるので、中には「kat」と書いてしまう子どもがいるかもしれません。また、「c」と「s」が同じ音を表すことがあるため、niceをniseと書いてしまうこともあります。大人になってから英語を習った日本人にとっては、意外な間違い方かもしれません。

 

逆に英語耳が育っていれば、つづりで「l」と「r」といった聞き分けにくいアルファベットを間違えることがほとんどないというのも、大人になってからバイリンガルになった人との違いです。

 

英語圏の小さい子どもたちも、誰もが最初から正しいスペルで書くことができるわけではありません。

 

こうした細かい間違いを繰り返しつつ、大人の指摘を受けたり、自分で正しく書かれたものを繰り返し見たりしているうちに、自然に正しいスペルを自分のものにしていきます。スペルミスや文法ミスを直すようになるのは、小学校に上がってからです。

 

フォニックスで発音のルールを「感覚的に」身につける

フォニックスについてもう少し複雑なルールをご紹介すると、次のような「子音+母音+子音+e」という語は、「母音はアルファベットの発音と同音、最後のeは発音しない」という決まりがあります。

 

cake(c+a+k+e aは「エイ」というアルファベット読み)

time(t+i+m+e iは「アイ」というアルファベット読み)

tube(t+u+b+e uは「ユー」というアルファベット読み)

 

これについても、子どもは「子音+母音+子音+e」という組み合わせでできたさまざまな単語の例を見ながら、発音のルールを感覚的に身につけていきます。

 

日本で幼いころから英語を聞いて自然な音を身につけた子どもにも、このフォニックスが役に立ちます。町の洋書店やインターネット書店には、ネイティブの子どもが読み書きを習うためのフォニックスの本がそろっています。

 

また、インターネット上の子ども向け英語学習サイトでは、フォニックスを習うためのワークシートがダウンロードできるところがあるので、それらをプリントアウトして使ってみるのもいいと思います。

 

[図表]フォニックスのワークシートが見つかるサイト

練習帳や絵本を使い、「お絵かき」のように楽しく学ぶ

日本には、子どもがひらがなを書けるようになるための練習帳があります。「あ」「い」「う」と一語一語が大きく書かれていて、その横に薄いグレーで書かれた文字があり、子どもはそれをなぞって書くことから始め、上手にできるようになったら、初めて自分でもひらがなを書けるようになります。

 

英語にも同様にアルファベット練習帳があります。英語圏の小さな子どもが使うものが洋書店やインターネット書店で手に入ります。インターネットからダウンロードすることも可能です。「ABC」「練習帳」といったキーワードで検索してみましょう。

 

ひらがなの場合はひとマスを縦横4つに区切って全体的にバランスよく書けるようにしているものがありますが、英語の場合は縦のバランスが大切なので、5本の横線が入ったものを使うと便利でしょう。

 

また、子どもの好きそうな「点つなぎ」をしながら覚える練習帳もあります。例えば家のイラストがあり、屋根を表す部分が点になっていて、その点をつないでいくと屋根が表れる、といった具合です。

 

アルファベットだからといって、必ずしも「お勉強」である必要はありません。英語圏の子どもが使うようなイラストのたくさん入ったドリルを活用して、自分の手で鉛筆を持って文字を書くことの楽しさを覚えてもらいましょう。

 

子ども用のドリルでは、ABCが完璧に書けるようになるまでアルファベットだけ練習するわけではありません。「APPLEのA、BEARのB」といったように子どもにとって身近な単語と結び付け、それが単語の一部を表すのだということをわかってもらうようにします。

 

まだ運筆力が足りない幼児の場合、アルファベットの形と、そのアルファベットから始まる単語の絵の塗り絵という形式のワークシートを使ってみましょう。

 

例えばアルファベットのaとapple(リンゴ)の絵、bとbee(みつばち)の絵に色をつけながら、文字の形を覚えていくのです。インターネットで「free printable alphabet coloring」と検索すると、容易に見つけることができます。

 

ABCを覚えるための絵本も役に立ちます。有名なものに『Dr.Seuss’s ABC』があります。Dr.Seuss(ドクター・スース)とは、アメリカの絵本作家・児童文学者で、日本ではあまり知られていませんが、英語圏の子どもなら誰もが一度はその作品を読んだことがあるのではないかという、人気作家です。

 

動物をモチーフとした独特のキャラクターで知られており、中でも帽子をかぶったネコのキャラクターが有名です。

 

『Dr.Seuss’s ABC』では、「What begins with C?」(Cで始まるものは何?)という問いかけとともに「Camel on the ceiling.」(天井のラクダ)という答えがあり、天井からぶらさがっているラクダの絵が描かれていたりします。

 

子どもの頭の中には、この愉快なラクダの絵とともに、Cという文字のかたちや、それを使った言葉が刻み込まれることになります。ごく簡単な英文ばかりなので、絵本の文章をそのまま書き写す練習をしてもいいでしょう。

 

一つひとつの文字が書けるようになったら、自分の名前をローマ字で書かせてみます。例えば「もえちゃん」と呼ばれている子どもが、自分の名前はMOEと書くのだとわかると、文字に対する興味がいっそう増してくるはずです。

 

 

三幣 真理

幼児英語教育研究家

 

バイリンガルは5歳までにつくられる

バイリンガルは5歳までにつくられる

三幣 真理

幻冬舎メディアコンサルティング

グローバル化が叫ばれている昨今、世間では英語力が問われる風潮になりつつありますが、日本の英語力は依然として低いまま。 学校での英語教育も戦後間もない頃からのスタイルとほとんど変わらないのが現状です。 そのためか…

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