争いが絶えないことから「争族」と揶揄される「相続トラブル」。当事者にならないために、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は相続業務を行っていた税理士に振りかかった相続トラブルについて、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

仲の悪い兄弟…遺産分割協議はどう進める?

突然の身内の不幸に、多くの人はその後何をしたらいいのかわからなくなります。そんな時に誰に何を相談したらいいのでしょうか? 弁護士や司法書士、行政書士、税理士、また銀行や生命保険の担当者……と、常日頃からお付き合いのある信頼できる専門家がいるのあれば相談するのがベストです。

 

しかしそんな専門家が相続トラブルの巻き込まれたり、引き金を引いてしまうこともあります。今回は、ある税理士が相続トラブルに巻き込まれた話をしましょう。登場人物は以下の通りです。

 

A社長

Bさん(A社長、Cさんの父)

Cさん(A社長の弟)

Dさん(A社長が経営する担当税理士)

 

地方のある町で工場を経営するA社長。10年前に父であるBさんから事業を継ぎ、日々忙しく過ごしています。父のBさんは引退後、悠々自適な毎日。またA社長の弟であるCさんは、元々父であるBさんとそりが合わず、高校卒業後に実家を離れ、最近では実家にも顔を出すことがなくなりました。

 

「父さん、最近、Cとは話したかい?」

 

「もうかれこれ、3年くらい顔を見てなければ、声も聞いてねえなあ」

 

「そうなんだ。私も全然話してないんだよ。来月、お母さんの十三回忌だから、帰って来いって言ってよ」

 

「顔を合わしても喧嘩になるだけだしな。俺とお前だけいればいいじゃないか。その方が母さんも安心だろ」

 

「そうかい……」

 

このような調子で、A社長と父のBさんは、弟のCさんと、どんどん疎遠になってしまったのです。

 

そして月日は流れ、元気だったBさんが亡くなりました。葬儀にはCさんも出席しましたが、兄弟の会話はほとんどなし。葬儀後、Cさんは何も言わずに帰っていってしまいました。

 

ある日、A社長は税理士のDさんを会社に呼びました。

 

「Dさん、相談があるんだけど」

 

「なんですか、社長」

 

「父の遺産なんだけど、調べたら色々出てきて。まったく話をしないとはいえ、私には弟がいるだろ。遺産をどのように分けるか、私だけで決めるわけにはいかない。そこで、Dさんが間に入ってほしんだ」

 

「Cさんですね、私も何度かしか会ったことはないのですが、A社長が直接話されるよりいいかもしれませんね。わかりました。私にお任せください」

 

「ほんと助かるよ」

 

A社長の要請を受けて、DさんはCさんにコンタクトをとり、遺産分割についてどうするか話を進めていきました。最初はスムーズにいくかと思われましたが、A社長が言っていたように、思いのほか父Bさんの遺産は多く、そのことがわかると、段々と話し合いは雲行きが怪しくなってきたいのです。

 

「Dさん、遺産分割の話は、進んでる?」

 

「それが、正直難航していまして。Bさんも遺産の多さに驚いていまして、それで欲が出てきたのではないかと」

 

「そうか。やはりお金が絡むと身内でも難しいもんだな」

 

その時、会社の電話が鳴りました。A社長が出ると、その顔がだんだんと険しくなってきました。

 

「どうしたんですか、社長」

 

「Dさんに、変われと。弁護士からなんだが……」

 

「え!?」と驚いたDさん。電話を替わると、Cさんの弁護士と名乗る人物でした。

 

「もしもしDさんですか。あなた、Cさんの父であるBさんの遺産について、色々動いてらっしゃいますよね。明らかにあなたのしていることは非弁行為ですよ」

 

電話を切ったDさんは顔面蒼白。

 

「どうしたんだい、Dさん」

 

「社長、私、訴えられました」

 

「えっ?」

弁護士か税理士か…相続相談は誰にすべき?

弁護士でないものが報酬を得る目的で、法律事件に対して業として除外事由なく鑑定、代理、仲介、和解、斡旋をする事はできないと、弁護士法72条では定められています。つまり弁護士には専門領域があり、この専門領域を弁護士でない人が行うことは非弁行為(ひべんこうい)といって、2年以下の懲役か300万円以下の罰金が科せられるのです。

 

事例のようなケースは、地方だとありがちです。日ごろの付き合いで税理士に依頼し、税理士も懇意にしてもらっているクライアントだからといって色々としてあげているうちに、非弁行為を行ってしまう……。

 

では相続に関して誰に相談すればいいのかというと、大き法律系の弁護士、司法書士、行政書士か、税の専門家である税理士かになるでしょう。まず法律系の資格について、下記にまとめます。

 

弁護士:すべての業務ができるオールマイティな資格です。相続争いが発生している場合には、弁護士の専門領域になります。

 

司法書士:登記を得意にしている資格です。各種名義変更手続きの代行をお願いするには、おすすめです。

 

行政書士:許認可手続きを得意にしている資格です。不動産がなく、車がある場合などには名義変更手続きをお願いするのもよいかと思います。

 

[図表3]弁護士、司法書士、行政書士、それぞれの仕事の領域
[図表1]弁護士、司法書士、行政書士、それぞれの仕事の領域

 

弁護士は、法律系の資格ではオールマイティに何でもできます。ただし、弁護士は依頼者の利益を最大化することが仕事です。そのため、利益相反(りえきそうはん)の要素がある案件は、両者から仕事の依頼を受けることができません。たとえば相続人が長男と長女の子ども2人であった場合、長男の利益を最大化しようとすれば、長女の利益を損なうことになり、長女の利益を最大化しようとすれば、長男の利益を損なうことになります。つまり「公平な立場で、遺産分割をまとめてほしい」という依頼は、原則、受けることができないのです。

 

税理士は、その名の通り、税金の専門家です。主な仕事は、法人の決算書の作成、法人税の申告、個人の確定申告です。一般的な税理士事務所では、業務の9割以上が、法人関係の仕事をしています。平成27年の相続税の改正前までは、1年間に日本全国で相続税申告は約5万件しかありませんでした(現在は約10万件)。税理士は約8万人いるのに、相続税申告は5万件ですから、1年に1回も相続税申告をやらない税理士が3万人近くいたわけです。

 

さらに、税理士試験のなかで、相続税は選択科目です。そのため、相続税のことを一切勉強したことがなくても、税理士の資格を獲得することは可能です。つまり、税理士の資格を持っているからといって、相続税に詳しいとは限らないのです。

 

 

では、専門家はどのようなアドバイスをしてくれるのでしょうか?

 

まず弁護士・司法書士・行政書士などの法律家に遺産分割のアドバイスを求めた場合、民法に基づき、家族の気持ちを優先させた分け方を提案されます。一方デメリットとして、相続税のことが、まったく考慮されていないアドバイスになりがちです。相続税は、遺産の分け方次第で、何倍にも何十倍にも変わってしまいます。気持ちだけで遺産を分けてしまうと、相続税が恐ろしく高くなってしまうことがあるのです。

 

一方、相続税に強い税理士に遺産分割のアドバイスを求めた場合には、相続税なら最も税金の負担が少なくなる分け方を提案します。そして、その提案を基に、家族の気持ちを反映させて、最終的な分け方を決めていきましょうとアドバイスします。

 

最近は、弁護士や司法書士、行政書士も相続税の勉強している人が非常に増えています。しかし、まだまだ相続税のこと知らない法律家もたくさんいますので、相続税のかかる人は、先に相続税に強い税理士に相談することをおすすめします。

 

【動画/筆者が「相続後の手続き」を分かりやすく解説】

 

 

橘慶太

円満相続税理士法人

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