※本連載では、相続・事業承継に関わる数々の問題を解決に導いてきた、日本経営ウィル税理士法人の税理士・東圭一氏が、「相続・事業承継」において発生しがちなトラブル例を取り上げ、事前にできる対策を解説する。今回は、事例をもとに、「自己株式の譲渡」の際の課税リスク等について見ていく。

所有する息子の会社の株売却を検討しているが…

田神二郎(仮名)は、20年前に小売業A社を創業した。非上場会社だが事業は順調に拡大し、毎年数十億円の売上を上げるようになっていた。

 

設立当時、資金がなかったので、田神二郎は父である竜二郎に資本金1000万円の半分を出してもらった。現在A社の株主は、二郎と竜二郎で、それぞれ100株(時価は、1株50万円)ずつ保有している。

 

竜二郎も高齢になってきたので、二郎は当初の資本金500万円に100万円を加えて600万円を竜二郎に返却したいと考えた。

 

しかし、竜二郎は生活にゆとりがあるので、現金の返却を望んではいない。ただ、息子の申し出が嬉しかったので、その600万円でA社株式すべてを売却することにした。

 

しかし、ここでふと思った。息子に売却代金を負担させるのは忍びない。A社に買い取ってもらえば、息子は株式の100%を所有することになるし、そのほうがいいのではないか。

 

【A社の貸借対照表(自己株式購入直前)】

資産2億円

債務1億円

資本金1000万円

利益余剰金9000万円

 

二郎もそれは妙案だと思った。ただし、税金には思わぬ落とし穴があるかもしれない。このまま進めるとどうなるか、念のため税理士の東圭一に相談することにした。

会社自らが発行した株式の購入は「配当」と考えられる

【税理士 東圭一のアドバイス】

 

竜二郎さんが、A社株式を発行元であるA社に売却した場合、自己株式の譲渡(所得税法25条1項5号)に該当します。

 

1株5万円で取得した株を、1株6万円で売却するので、1株当たり1万円の利益(6万円-5万円)が出ていると考えるのが一般的かもしれません。しかし、税法では、自己株式の譲渡は、単なる株式の譲渡ではありません。

 

A社が自身の発行した株式を購入するということは、その株式の価額に見合う金銭を払い戻す行為と同じなので、税法では「配当(みなし配当)」と考えることになります。資本金1000万円なので、1株あたりの資本金等の額は、5万円です。1株あたりの購入金額が5万円を超える部分は、配当をされたと考えます。

 

また、1株50万円の価値のあるA社株式を1株6万円で譲渡することについて、税法では、時価で売却したと考えます。措置法通達37の10・37の11共‐22、所得税法59条によると、株式を譲渡した株主が、中心的な同族株主(※)に該当するとき、譲渡時の価額の2分の1に満たない金額で株式を譲渡したときは、時価で法人に売却したものとして取り扱うことになります。

※「中心的な同族株主」とは、課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいう。竜二郎さんは、二郎さんと合わせるとA社株式を100%保有していたので、ここでいう「中心的な同族株主」に該当します。

 

では、A社株式の時価が1株50万円とすると、配当を受けたとされる金額はいくらになるのでしょう。1株あたりのみなし配当は、1万円で、100株ありますので、100万円の配当を受けたと考えます(下記計算例)。

 

60,000円-50,000円(1株あたりの資本金等)=10,000円

10,000円×100株=100万円

 

株式の譲渡所得は、50万円の価値のあるものを50%未満の価額でA社に売却しているので、「5万円で取得したA社株式を50万円でA社に売却した」と考えるのです。

 

ただし、配当とみなされた100万円は、売却益から除かれます(下記計算例)。

 

500,000円×50%=250,000円>60,000円 低額譲渡に該当

500,000円(時価)-(60,000円(譲渡代金)-50,000円(資本金等の額))-50,000円(取得費)=440,000円

440,000円×100株=4,400万円

 

みなし配当に係る所得税・住民税

100万円×45%(所得税率)=45,000円

※竜二郎さんは、他の所得もあるので、最高税率負担者としています。

45000円×102.1%(復興特別税)≒46,000円

※計算が複雑になるため、配当控除、その他の所得控除は無視しています。

株式の譲渡に係る税額

4,400万円×20.315%≒900万円

 

結果として、竜二郎さんは600万円の売却代金を得るために、約905万円(900万円+4.6万円)の税負担となります。

 

二郎さんは、A社を設立する際に、竜二郎さんに資金を出してもらって、感謝していたかと思います。しかし、その後の処理を誤ると、このように思いがけない税負担のリスクが生じることになります。

 

株式の売却方法も重要ですが、設立当初の出資者を誰にするかということも、重要な選択肢の一つです。もし、二郎さん個人が竜二郎さんから500万円を借りて、合計1,000万円を二郎さんだけが出資者としてA社を設立していれば、二郎さん個人が竜二郎さんに対して、100万円の金利を付けて返済しても、大した税負担にならないはずでした。

 

 

東 圭一

日本経営ウィル税理士法人 代表社員税理士

 

 

※本稿は執筆時点における一般的な内容をわかりやすく解説したものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士などの専門家にご相談の上、ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

※本事例はフィクションです。実在の人物や団体とは一切関係ありません。

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