AIは「インターネットの普及」と同じ道をたどる
AI=人工知能。
テレビや新聞、インターネットなどのメディアで「AI」という言葉を見ない日はないくらいに、AIという言葉は我々の身近なものになっている。また企業にとっても、AIに関連する商品やサービスに着手することがPRやIRで非常に有効であるため、(その企業がAIのことをわかっているかどうか、AIを有効活用できているかどうかは別にして)企業の「AIアピール合戦」も大いに盛り上がっている。
ところで、皆さんの生活に密着したAIは何だろうか。
意識して自身の周りを見渡したとき、意外と身の回りにはAIに関係するものが存在していないことに気が付くだろう。毎日の生活に必要な、かけがえのない存在となっているAIはなかなか見当たらない。今はまだAIという言葉だけが一人歩きしているだけで、生活レベルでAIの恩恵を感じることは、ほとんどない状況なのだ。
思い出してほしい。かつてのインターネットの黎明期に「インターネットはすごい」とわかっていても、実際の生活に密着し、なくてはならないものになり、それを我々が理解するようになったのは、ある程度の時間を要した。
現在のAIはそれと同じなのかも知れない。
しかし、今後AIは確実に生活になくてはならないものになる。かつてインターネットがそうだったように、ほどなくしてAIは我々にとって身近なものとなり、生活基盤となり、AIなしで生活をしていくのが困難になるだろう。決して大げさではなく、インターネット以上のインパクトがAIにはあると筆者は考えている。
白黒つける「勝負事」は、AIの得意分野
ここでAIの歴史について少し紐解いていこう。
AIの歴史は古く、1950年代から研究が始まった。その後、AIは2回の隆盛と挫折を経て、今、3回目の隆盛を迎えている。それに大きく寄与したのが、コンピューター性能の向上だ。つまりコンピューター性能の向上に伴い、データの処理能力があがり、AIが有効に機能する環境が整った、というわけだ。並行してAIのアルゴリズムが改善され、AIの開発環境など取り巻く環境が整ってきたため、これまでになかったブレイクスルーをもたらし、今、AIは新しいステージを迎えている。
こうして「コンピューターの性能の向上」「AIのアルゴリズムの改善」「AIを取り巻く環境の整備」が行われたことで、AIは3回目の隆盛にして、ようやく我々の生活に密着したインフラとなりつつある。
同時に、ディープラーニング(深層学習)により、これまで人間によるインプットに頼っていたものが、AI自らが学習し進化を遂げていくことが可能になり、飛躍的に生産性を向上させられることがわかった。
こうして本当のAI時代が始まろうとしている。現在AIといえば、自動運転やコールセンター、音声認識、あるいはロボットといった分野が花形を呼ばれ、それらの分野での実用化が進み、メディアを賑わせている。
しかし、それら花形と呼ばれる分野と同等か、それ以上に「AIの本領が発揮される分野」がある。それが、白黒がはっきりする勝負事に関係する分野だ。AIといえば「チェス」や「将棋」と理解している方も多いと思うが、その理解は正解だ。1997年にAIがチェス世界チャンピオンに勝利して以降、AIは進化し続け、今ではAIに勝てるのはAIのみという域にまで達している。確かに花形たる車の自動運転や音声認識など、様々な分野でAI研究が進められているが、こと将棋やチェス等の勝負事の世界においてはAIの強さが群を抜いている。
なぜ、AIは将棋やチェスで力を発揮するのか?
それは、前述したように、AIがもっとも力を発揮するのが、白黒がはっきりする勝負事だからである。勝つか負けるか、白黒がはっきりする勝負事は、自動車運転や音声認識のような膨大な処理は不要であり、AIにとっての“大”得意分野なのだ。
さらにAIが力を発揮する分野として、あまりメディアでは積極的に発信されないものの、AIが積極的に実用されている分野がある。それは「投資」と「軍事」の分野である。その理由は明快で、双方が勝つか負けるかの世界だからである。株式投資について考えてみよう。
・株式投資は「勝つか負けるか」の勝負事
・株式投資は「上がるか下がるか」の二択
・「負けを目指す」という選択肢がない
おわかりだろうか。将棋やチェスといったゲームの世界と同様に、投資や軍事の世界においても、AIは最強の力を発揮するのである。その実用化は我々の想像を超えて進んでいる。
しかし残念ながら、軍事の世界ではもちろんのこと、投資の世界でAIが実用化されているという話は、あまり耳にすることはない。あったとしても、大手証券会社や金融機関が、AI開発に数千億を投資することが決定した、という情報や、AI投信が金融機関から発売された、という情報など、表に出る理由が明確な情報、つまり、「表に出ることで利益を得る組織や人間が存在する情報」だけが、我々の耳に届いている。
本来ならば勝つか負けるかの投資の分野で、しかも個人投資家にこそAIは最大の武器になるはずだ。しかし個人投資家が利を得られるように見えて、その仕組みを牛耳っている組織ばかりが利を得ている、というのが実態なのだ。このように「見せかけ」と「実態」に大きな乖離があるのが、現在のAIの世界だと筆者は考えている。
次回はAIと投資の関係を掘り下げ、なぜAIは個人投資家に有効なのかを説明していく。