3月15日、トランプ米大統領は「国境の壁」建設費用を巡っての国家非常事態宣言の無効を可決する決議案に対し、拒否権を発動した。この拒否権を止めるには、上下両院で3分の2の票が必要となる。トランプ大統領の「国境の壁」建設へのこだわりは強く、11日に発表された予算教書には、前回議会に拒否された額を上回る86億ドルの予算が要求されている。予算教書には民主党への攻撃を意図する予算案が目立つが、これらが今後の米財政や経済に与える影響は? Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bankの長谷川建一CIOが読み解く。

拒否権発動の阻止には、上下両院で3分の2以上が必要

米国上院は3月14日、トランプ大統領がメキシコとの国境に壁を建設する費用を確保するために発令した国家非常事態宣言を無効とする決議案を賛成59反対41で可決した。与党共和党のマコネル上院院内総務は、共和党所属の上院議員に対し、国家非常事態宣言の無効化決議案を否決に持ち込むよう訴えてきたが、共和党からは12議員が賛成に回る「造反」をした。なお、同案は2月に下院で可決・成立している。

 

翌15日には、トランプ大統領は議会が国家非常事態宣言を無効とする決議を通したことについて、米国にとって危険な決議案と非難した上で、多数の米国人を非常に重大な危険にさらすことになると指摘。トランプ大統領は、「拒否権を発動する務めがある」と述べ、議会上下院が可決した同宣言を無効とする決議案に拒否権を発動すると発表した。

 

下院のペロシ議長は声明で、非常事態宣言から憲法と民主主義を守るため、下院は3月26日に大統領の拒否権発動を覆す採決を行うことを発表し、対決姿勢を明らかにした。議会が大統領の拒否権発動を止めるためには、上下両院でそれぞれ3分の2以上で再可決する必要がある。現時点では、上下両院ともに再可決に必要な票の目算はたっていない。大統領の拒否権は発動されれば、非常事態宣言に基づき、議会を経ることなく予算執行されることになる。

 

今年初めの予算協議では、トランプ大統領は、民主党との折り合いをつけられず連邦政府の一時閉鎖を招く結果となって、最後は民主党に歩み寄る譲歩を余儀なくされた。しかし、今回の非常事態宣言では、トランプ大統領が壁の建設を支持しない議会をうまく出し抜いた形だ。

民主党政策に反する予算教書 下院を通る可能性は低い

トランプ大統領は、3月11日に予算教書を発表した。トランプ政権の政策の基本方針は、国防費を増やす一方、社会保障費など国防以外の予算を削減するもので、これは民主党の主張とは相容れないものである。しかも、裁量的国防費を20年度だけで500億ドル超上積み要求しており、これは社会保障費や医療補助などを大規模に削減しても穴埋めできない規模である。改革を名目に、福祉対策や環境保護局(EPA)向け予算の引き締めも提示されている。これらはまさに民主党の政策を攻撃対象とするもので、予算成立上の争点が満載である。

 

象徴的なのは、メキシコ国境の壁建設のために86億ドルを要求したことである。これは今年初めに議会が拒否した前回の要求額を上回る。この予算案が、民主党が過半数を占める議会下院で成立する可能性は低く、議論は紛糾するだろう。

 

また、予算教書では、米国の経済成長率は、年3.0%平均に達し税収は確保できることを前提としている。ちなみに、トランプ大統領の選挙公約は3.0%成長を達成させるというものだったが、大規模な税制改革や投資促進のための規制緩和によっても2018年の成長率は2.9%成長だった。米国経済は比較的堅調に推移しているが、世界的には貿易摩擦をはじめ成長鈍化に不安が高まる中、年平均3.0%の成長が持続不可能とは見通せないという反応が多い。

 

また、予算教書におけるトランプ政権の示す財政赤字の見通しは、2029年までの10年間で財政赤字がGDP比0.6%まで縮小し、公的債務もGDP比71%に低下するとしている。しかし、これは、議会予算局(CBO)が1月に公表した、10年後の財政赤字がGDP比4.4%、公的債務がGDP比93%に上昇するとの見通しとは相容れないものである。

 

米国連邦政府は、債務不履行のリスクを回避するために、今秋には債務上限を引き上げる必要がある。今年初めにもそうだったが、連邦債務上限を巡る対立は根深く、再び連邦政府閉鎖などの事態を招きかねない。対立を深める議会とトランプ大統領が、妥協点を見出して予算を成立させることに、非常事態宣言が尾を引かない訳はないだろう。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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