本記事は、米国株式の長期保有で財を成した、ある超富裕層のエピソードを見ていきます。※本連載では、ペレグリン・ウェルス・サービシズ株式会社 代表取締役の山口聰氏に、超富裕層の資産運用のエピソードから、資産防衛のヒントを解説していただきます。

米国株の長期保有で「超富裕層」になった研究者

C様は高校生のころから海外の学校で学ばれ、そのあとも米国で研究者としてのキャリアを約40年歩んでこられました。米国での現役生活を終えて日本に戻られてからも国内の大学等で研究は続けている、好奇心と向学心溢れる方です。温かい人柄が大変魅力的ですが、実は現役時代、著名な投資家のウォーレン・バフェット氏に劣らぬほど、米国株の長期投資で資産を築かれた「資産運用の成功者」という顔もお持ちでした。

 

皆様ご存知の通り、バフェット氏の投資手法は、わからないものには投資をせず、徹底的に割安な確かな優良企業を長期で保有する、いわゆる「バリュー株投資」が有名です。C様も若いころからボーナスが出ては自分で調べた銘柄を買い、それを繰り返してずっと売らずに保有し続けた結果、大きな資産となったそうです。株式の長期投資で資産を築くことに成功したC様は、その考え方や判断がとてもユニークでした。

一度買ったら売らない…長期保有を徹底

C様は医療分野の研究者として活躍される一方、株式投資が好きで、若いころは本当に株式ブローカーになろうと思ったこともあるそうです。その手法は至ってシンプルで「しっかり調べて伸びそうな銘柄を買ったら売らない」というもの。確かに、米国株式の長期リターンは日本株式のそれと比較してもパフォーマンスは歴然としています。米国ではずっと以前から「資産を増やすには株式投資」という考え方が浸透しています。実際、代表的な米株価指数であるS&P500の過去30年間(1988~2017年)の年率平均リターンは9.3%もありました。一方、同期間の東証株価指数TOPIXは1.8%しかありません。

 

[図表1]S&P500とTOPIXの比較

『Bloomberg』のデータより作成
『Bloomberg』のデータより作成

 

仮に本当に年率9%で複利運用ができたとしたら、20年間では元本は約5.6倍にもなる計算です。確かにデータではそうだったかもしれませんが、実現するのは極めて困難です。しかし、C様は結果としてこれに近いような資産増を実現しました。

 

C様は本当に研究熱心です。自身でくまなく企業情報や財務内容を調べ上げ、成長ストーリーの仮説を立て、長期投資に徹してこられました。これだけでもなかなかできるものではありません。

株式投資は「欲しい」という感覚で行う

C様の一日は朝の4時半ごろから始まります。早朝にフローリングの掃除を終え、始発で大学の研究室に向かわれます。研究に没頭しているときは電話にも出られません。夕方は17時には帰宅され、早い夕食を奥様と取られたあとは銘柄研究をされています。ちなみに毎夜、奥様とクラシックを演奏することが日課だそうです。

 

C様は、買付け注文を出す際にはいつも、「○○という会社を買いたい。今すぐ欲しいのだけど、どれくらいで買えるの?」といった聞き方をされます。C様からの連絡はいつも唐突です。C様のなかでこれだと決めたときは、早く欲しくてたまらない感覚になるそうです。

 

筆者の経験上、「今すぐ欲しい」という気持ちで株式投資をする方はあまりいなかったと思います。買おうと思ってから値段の動きや価格の水準をチェックするほうが一般的です。ところがC様は「欲しい」と思ったら、今株価がいくらかはほとんど気せず、またチェックするチャートはいつも週足や年足で見る年単位の長期チャートでした。

 

極めつけは、注文はほぼ成行注文であることです。ニューヨーク市場に取り次ぐ際には急な価格変動による成立を避けるために指値注文を出す場合もありますが、かなり低い価格設定をされるので、ほぼその日のスタート値で取引が成立します。為替水準も特に気にしません。加えて予定額を一回で買い切ります。

 

このように、C様は一般的な感覚からは無茶とも思われる投資をされていました。もちろん相場が上昇傾向にあったことは確かですが、不思議なことにC様が買った銘柄の株価は、その多くが順調に大きく上昇しました。筆者もつい「もう少し下がったタイミングを見てはいかがでしょうか」といってしまうこともありましたが、C様は思い立ったらすぐ欲しいと買ってしまいます。するとそこから株価は上がっていくのです。いわゆる「順張り投資」ですが、その思い切りのよさにいつも圧倒されていました。

実際に買った銘柄の傾向は?

C様が日本に戻られてから投資された銘柄は、本職の研究分野である米国のバイオ関連企業から、グローバルにビジネスを展開する多国籍企業まで幅広いものでした。日本の証券会社では取り次ぐことができないような新興企業や欧州の会社を買いたいといわれたことも何度もあります。目利きのポイントは、その会社の事業内容や研究分野がビジネスとして大きな将来性があるかどうかです。

 

C様が注目されてきた企業の一部を具体的に紹介すると、バイオ製薬会社ではギリアド・サイエンシズ【GILD】、アボット・ラボラトリーズ【ABT】、アッヴィ【ABBV】、アムジェン【AMGN】、イルミナ【ILMN】、リジェネロン・ファーマシューティカルズ【REGN】などがありました。他にも、サーモフィッシャー・サイエンティフィック【TMO】、ドイツのフレゼニウス【FWB:FRE】といった医療関係企業も含まれていました。

 

また、今後の注目銘柄として、当時から情報関連技術やサービスの発展を見越し、英国に拠点を置く多国籍情報関連サービス会社レレックス・グループ【REL】や、幅広いシステム・ソリューション事業を世界で展開するドイツシーメンス【SIE:GR】、米軍需製品メーカーであるレイセオン【RTN】についてよく話されていました。

 

日本企業の話題は少なかったのですが、当時は味の素や富士フィルムに注目されていました。しかしなんといっても、がん免疫療法薬で脚光を浴びた小野薬品工業へのいち早い注目はさすがでした。

 

このようにC様が注目される銘柄を眺めてみますと、世界的なテーマに関わるわかりやすい分野で事業を行う企業が多いようです。また、すでに大企業でありながらも成長率の高い企業を多く選んでいます。もちろん株式投資は10戦10勝と行くはずはありません。しかしC様は、ご自身が欲しくてたまらないと感じた銘柄にためらわず投資し長期に保有することで、高い勝率と高い運用効果を実現していました。

 

 まとめ 

 

なかなか真似をしてうまくいくものではありませんが、C様の株式投資の極意をまとめると、次のようなものになります。

 

わからないものには投資をしない

② 価格だけを見て投資はしない

③ 日常の感覚でこれから伸びそうなテーマに関わる大企業に注目する

④ 投資するというよりその会社の株式を欲しいという感覚で投資する

⑤ 思い立ったらすぐに予算枠で大きく買う

⑥ 売りのことは考えない

⑦ 買うと決めたら値段にはこだわらない

 

いかがでしょうか。日々進歩する情報技術のおかげで今や高度な株式トレーディングツールも個人投資家が自由に使いこなせるような時代です。しかしC様は特にパソコン上の株価ボードをじっくり見るわけでもなく、今でも電話で株価を聞いて取引される往年のスタイルです。どんなに時代が変わってもC様のような典型的な長期株式投資家の投資スタイルには、筆者たちが最近忘れがちになっている株式投資のヒントがあるのかもしれません。

 

 

山口 聰

ペレグリン・ウェルス・サービシズ株式会社

代表取締役

 

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