1965年の独立以降、目覚ましい発展を遂げるシンガポール。日本よりも少子高齢化が深刻であるにもかかわらず、年平均7.8%もの経済成長を続けています。本記事では、ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子氏が、シンガポールの成長戦略について解説していきます。

「賢さ」を武器に、経済成長を最優先とした政策を実施

ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。夫の転勤がきっかけで、2015年に当時1歳だった娘を連れてシンガポールへ移住しました。

 

シンガポールに住んでみると、日本と比べて、先進的かつ快適なところが多いことに気づきました。日本より少子高齢化が深刻であるにもかかわらず、日本の理想的な未来を先取りしていたのです。書籍『少子高齢化でも老後不安ゼロ シンガポールで見た日本の未来理想図』(講談社+α新書)では、その賢くて合理的な小国の知恵を記しました。その一部を紹介します。

 

◆国民総活躍社会、さらに学力も世界一

 

シンガポールの社会保障は人口減少に影響されない制度設計となっており、老後生活の不安を軽減しています。また、シニアも女性も働き続けることができる制度設計(保育所・家事労働サービスほか)があります。交通システムも、時間差で運賃を変動させ、混雑を緩和し、バリアフリーが進んでいます。

 

シンガポールの富裕層にとってメイドを雇うのが一般的であり、家事・育児・介護をアウトソーシングすることが可能です。加えて、交通システムの充実など、国民総活躍の地盤が整っているため、得意なことに集中して時間を使えば、生活水準や世帯収入は向上できます。ライドシェアや自動運転など、新しい技術もいち早く導入されており、日々生活が快適になります。物事を決めるスピードも速く、非常に合理的、効率的に国がまわっているのです。

 

さらに学力テストは世界首位(科学的リテラシー・読解力・数学的リテラシー)と、教育政策にも驚かされます。世界的投資家のジム・ロジャースも、娘の教育のためにシンガポールへ移住しているほか、日本人の富裕層でも教育移住をしている人が増えています。

 

◆唯一の武器は「賢さ」

 

シンガポールの平均寿命は、男性80.3歳、女性84.8歳(2014年)。合計特殊出生率は1.25人(日本は1.42人/2014年)と、日本より少子高齢化が深刻ですが、女性もシニアも活躍できる社会を実現しています。そして優秀な外国人労働者を確保することで、少子高齢化から起こる労働力人口減少の問題を解消しています。

 

シンガポールと日本で決定的な違いを感じるのは、「政治のリーダーシップ」です。一党独裁で首相の権限が非常に強く、初代首相のリー・クアンユーが真っ白のキャンバスにデザインをした国家こそが現在のシンガポールであるといっても過言ではありません。

 

1965年にマレーシアから追放され、水などの資源もままならないまま独立国家にならざるを得なかったシンガポールを、現在の姿まで導いた建国の父が、リー・クアンユーなのです。

 

当時のシンガポールの武器は「賢さ」だけ。日本のように海という城壁に守られている国ではないため、マレーシアなど近隣諸国に対する安全を保障したり、水や食料もおぼつかない状態から、国民を食べさせていくための資源を確保したりする必要がありました。

 

余裕がない状態からのスタートだったために、マスメディアの管理など表現や言論の自由を抑圧し、徹底的な能力別教育により国家を構築するためのエリート官僚を確保し、生存のために何よりも経済成長を最優先にさせたという事情があります。その結果、50年間で毎年平均7.8%の経済成長を実現させました。

 

国を挙げて外資を誘致し、外資主導で雇用創出や技術導入を計る成長スタイルや、国民への社会保障を必要最低限かつ効率的に行うなど、日本とは大きく異なる政策がとられました。

「国防費」と「教育費」が国家予算の約4割を占める

◆国家予算の約4割は国防と教育

 

日本とシンガポールの国家予算の配分を見ても、重点の置きどころの違いがよくわかります。シンガポールの国家予算の約4割は「国防費」と「教育費」なのに対して、日本の国家予算の約7割は「社会保障」「地方交付税交付金等(地方自治体の収入の格差を少なくするために交付される資金)」「国債費」の3つで、国防費と教育費はそれぞれ0.5割程度です。

 

日本の政治家は派閥内での影響力を行使してのし上がっていかなければなりません。内閣の支持率が下がると、いつまた選挙になるかわかりません。そうした意味でも、選挙権を持つ人数が多い高齢者の声が政治に反映されがちです。結果、超高齢化社会に突入した日本は、教育という将来への投資よりも、目の前の高齢者の社会保障給付の割合のほうがずっと高くなっているのです。

 

日本も国民の将来の不安を軽減させるような政治的なリーダーシップが必要です。バブル崩壊後、いつまでも足踏みをして前に進まない状態ではいられません。 

 

◆日本がシンガポールに学ぶこと

 

日本は技術など「持てる国」なのに、アピールが苦手なのでもったいなく感じます。これに対してシンガポールは、持てるものは少ないものの、戦略やプレゼンテーションなどでは強みを最大限に活用していて、両者は対照的に見えます。

 

また、シンガポールは「経済成長のためなら何でもする」というぶれない軸がある国です。日本も国に余裕がなくなるなか、シンガポールのように前のめりになって積極的に成長戦略の矢を放っていく必要があるのではないでしょうか。

 

高齢化による働き手不足をどうするのか、次世代のリーダーを育成するための教育はどうするのか。国にも個人にもお金があり、日本人に対する信頼が大きい今こそ、行動に移すべきではないでしょうか。

 

日本より少子高齢化が深刻な状況でありながらも、女性・シニア・外国人労働者の活用で働き手不足を解消しているシンガポール。学ぶことはたくさんあるはずです。

 

 

花輪 陽子

ファイナンシャル・プランナー

 

本記事は、書籍『少子高齢化でも老後不安ゼロ シンガポールで見た日本の未来理想図』(講談社+α新書)から一部を抜粋し、再編集したものです。

少子高齢化でも老後不安ゼロ シンガポールで見た日本の未来理想図

少子高齢化でも老後不安ゼロ シンガポールで見た日本の未来理想図

花輪 陽子

講談社+α新書

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