今週(10/16〜10/22)の国際マーケット展望をお届けする。報道によると、米国が中国を「為替操作国」認定する可能性は低くなったようだ。「人民元安は中国の国益にかなわなない」という見立てだが、とすれば、真に気掛かりとなるリスクは中国による人民元防衛のための「米国債売却」というシナリオである。また、米は日本とのTAG交渉においても為替条項を含めることを示唆しており、日本が「為替操作国」認定される可能性についても取り上げる。

通貨安に操作すれば関税への対抗も可能だが?

本来、いかなる国も、自国通貨が安くなることなど、望んでいない。通貨安は輸入物価の上昇を通じてインフレ圧力になる。今年のアジアを除く新興国を見ていただければ分かるとおり、米ドル金利が断続的に上昇するなか、多くの国で昨年までとは異なり、自国通貨が下落し、インフレ圧力に晒され、必要以上に利上げを余儀なくされたり、政策カードを制限されたり、経済的な負担を強いられたりする結果となっている。

 

もちろん、貿易収支の不均衡が際立っており、関税を掛け合う貿易摩擦が生じている二国間では、貿易上の価格競争力を維持する目的で、相対的な通貨安を政策手段として利用する可能性も理論的にはある。その場合、貿易不均衡を関税などで調整しようとする努力が骨抜きにされてしまう。

 

 

現在の米中貿易摩擦の図式は、米国から見ればこれに当てはまるといえるのかもしれない。故に、米国は中国が為替操作に手を染めているかを調査しており、結果を近時、外国為替報告書で公表するとしている。

中国に対する「為替操作国認定」は見送りか

先週末の報道では、米財務省の中国に対する為替操作国認定は見送られるとの見込みが高まっているとのことである。国際通貨基金(IMF)も、幹部の発言として、人民元の為替水準は中国経済のファンダメンタルズに「ほぼ沿ったもの」であると評価していることが伝えられた。

 

易・中国人民銀行総裁は米メディアとのインタビューで、人民元は「柔軟な為替レートメカニズム」に従って、「合理的かつ均衡の取れた水準」にあるとの認識を示し、「ドル上昇を背景に、元は年間を通じて合理的な範囲内にとどまる」との見通しを述べた。

 

ムニューシン米財務長官も、中国側は、人民元が下落を続けるのは中国の国益にかなわないと強調したと認めており、 為替操作国の認定という妙なレッテルが貼られる可能性は小さくなったと考えられる。

人民元安、本当のリスクシナリオは「米国債売却」か

米中貿易摩擦の激化とその影響による成長率の鈍化を背景に、1ドル=7人民元水準という心理的な節目にまで下落してきている。筆者は、従来の見通しどおり、中国政府は、1ドル=7人民元を下回る人民元下落を容認しないと考えており、そこで、気掛かりなことは、中国が保有する米国債を売却して、人民元を防衛するというシナリオである(関連リンク『米国債売却!? 中国への「制裁関税」で想定される2つのシナリオ』参照)。

 

中国が保有する米国債は1兆1700億ドル相当に上り、米国債券市場にとっても、相応のインパクトはある保有額である。貿易摩擦の対抗手段として中国が米国を追い込むために米国債を売却する可能性よりも、貿易摩擦の影響から下落した人民元を防衛するために米国債の売却に動くというシナリオの方がリスクが大きい。

 

先週の株価下落も、米ドルの長期金利の金利水準が切り上がったこともひとつの要因であるということを踏まえると、米国債売りの圧力となりかねない、このシナリオについては、より現実感を持っておかなければならないことは理解いただけると思う。

TAG交渉で、日本が為替操作国認定される可能性は?

なお、為替安誘導については、ムニューシン米財務長官は、日本との物品貿易協定(TAG)交渉で通貨安誘導を防ぐ為替条項を含めることを示唆したという。すでに、USMCA(United States-Mexico-Canada Agreement、米国・メキシコ・カナダ協定)にも盛り込まれたものと同様の条項を、二国間交渉でも盛り込んでいく方針と伝えられている。

 

かねてより、安倍政権は、金融緩和と円安をアベノミクスの三本の矢と公言して憚らなかった。茂木経産相は、具体的なそのような話は今のところない、と否定的だが、果たして、日本政府は、どのように対米TAG交渉を進めていくのだろうか? 筆者は、米国としては、二国間交渉を骨抜きにさせないように、為替条項を交渉のテーブルに載せるつもりではあるものの、為替操作国認定という極端な手段に訴える腹積もりではないと考える。

 

今週は、この他に、引き続きブレグジット交渉の進展度合い、イタリアの財政赤字問題も注目しておきたい。また、トルコ問題は、サウジ問題とも絡んで、進展が見られる可能性があることも気をつけておくべきだろう。相変わらず、ノイズのある材料が多い。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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