今週(9/15〜9/21)の国際マーケットレポート。今月24日に発動されるトランプ米政権による2,000億ドル中国への制裁関税。中国も600億ドルの報復関税を実行するが、米への影響は小さいと見られており、他の手段を講じることが予想される。今回は、今後考えられる懸念として、中国による「人民元、対ドル下落の許容」「米国債の一部売却」という2つのシナリオの可能性と影響を検証していく。

中国政府が、人民元の対ドル下落を許容する可能性?

トランプ米政権は、知的財産権侵害を理由に、中国からの輸入品に総額2,000億ドル(約22兆円)、5745品目に対し10%の追加関税を課す制裁関税の第3弾を今月24日に発動する。中国も対抗措置として600億ドルの米製品に報復関税を課す。貿易摩擦の行方は混沌としてきたが、筆者は11月の米中首脳会談では妥協のシナリオは十分に残ると考えている。

 

 

米国経済は堅調で、今回の追加関税程度なら影響も軽微であるとすると、ふたつほど懸念すべきことが考えられる。ひとつは、中国側に追加関税ではカードが小さく対抗手段が限られるため、為替レートを対抗手段として利用し、人民元が対ドルで下落するのを容認する可能性である。実際、制裁関税が実施段階に入って、人民元相場は下落している。しかし、1米ドル=7人民元という水準は、2016年に中国が多額の為替介入を実施して守りきった水準である(現在は、1ドル=6.85人民元水準)。

 

筆者は、この水準を割れて人民元が下落することを中国政府が許容するとは想像しがたい。人民元の国際化を促進したいなか、他国が人民元を保有するインセンティブを失わせるようなことを意図的にするとも考えにくい。現に、李克強首相は、輸出促進のための人民元の切り下げはしないと繰り返し述べている。

米国債売却のシナリオで、利回りはどこまで上昇するか

もうひとつの懸念は、米中貿易摩擦がエスカレートするなか、人民元への下落圧力が強まっているが、1米ドル=7人民元という水準にまで、人民元安が迫ったとき、中国政府が人民元の下げ圧力に抵抗することである。すなわち人民元安に歯止めをかけるということだ。そうなると、2016年もそうであったように、中国が保有する米国債の一部を売却して得たドルを為替市場で売却して人民元を支えることになる。ちなみに中国の外貨準備資産は3兆1,100億ドルに上る。このうち1兆1,800億ドルを米国債が占めると推定され、日本と並んで、米国債の保有高は大きい。

 

この場合、米国債市場に影響を与えることが考えられる。米国債市場は15兆7,000億ドルもの規模を持つ世界で最大の債券市場である。中国が購入額を減らしたり、ポートフォリオの売却に踏み切ったとしても、十分に他の参加者で吸収でき、債券市場が混乱する可能性は小さいと考えるのが大勢だろう。しかし、売りが出る以上、利回りにはいくらか影響は出ることを想定しておくべきだろう。一部の試算では、中国が米国債保有を縮小した場合、10年米国債利回りは、30ベーシスポイント(0.3%)程度、上昇することになるというものもある。

 

米国経済の堅調さと物価の緩やかな上昇は、FRBの利上げを正当化し、米国債利回りを緩やかに上昇させてきた。しかし、堅調な米国経済の状況に加えて、税制改革のための財源確保の必要から米国債の新規供給が急増していること、これに中国の米国債保有減少という懸念が加わると、米国債市場の利回りは切り上がる可能性は高まるのではないだろうか。実際、この2週間ほどで、10年米国債の利回りはじわりと上昇を始め、心理的節目とされるの利回り3.0%を突破してきている。

 

 

より長い時間軸で見ると、貿易摩擦は、日米間の自動車摩擦が長期化したことと同様に、米中間でも長期化するだろう。そして今後、中国は貿易(輸出)依存を減らしていき、貿易黒字額も減らしていくことになろう。これは、貿易黒字が中国の外貨準備を増加させ、米国債を購入してきた図式が変わっていくことを意味する。

 

FRBが利上げを継続するほど、経済には抑制要因となるため、長期金利には頭打ち観測が根強かったが、上述の要因を考慮に入れると、長期金利に上昇圧力がかかり、水準を切り上げる可能性があることには、注意しておく必要があると筆者は引き続き考えている。長短利回りの逆転よりも、10年米国債利回りが3.25%から3.50%のゾーンに入ってくることの方が早いのではないだろうか。

 

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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