ベトナムの市況が賑わっている。2011年以降は経常黒字が続き、既に8年目。時価総額は1,860億米ドルに及び、MSCIは新興国市場への格上げも検討している。堅調に伸び続けるベトナム経済を支えているものは何か? 本連載では、前後編の2回に渡り、ベトナムへの投資に詳しいドラゴン・キャピタル社のポートフォリオ・マネージャー、レ・イエン・クィン氏に最新事情と今後の予測を伺った。前編のテーマは「海外から直接投資が進むベトナムの魅力」。聞き手は、ニッポン・ウェルス・リミテッド(NWB/日本ウェルス)のCIO長谷川建一氏である。

FDIが集まり、インフラ開発と貿易で中間所得層が増加

長谷川 現在、非常に堅調な成長を続けているベトナム経済ですが、その原動力となっているものは何でしょうか?

 

クィン ベトナム経済の最大の強みは人です。ベトナムの人口は約1億人で、そのうちの5,500万人がいわゆる労働人口。年齢層も非常に若く、人口の平均年齢はわずか30歳です。このように、厚みのある若い人口構成が、海外から多くの直接投資(FDI)を引き寄せる原動力となっています。

 

特に、ここ数年間、FDIは2桁(パーセント)の伸びを記録し、ベトナムのインフラを構築しました。若者の多くが農村部から都市部に移住し、FDI関連の外資企業で働くことになった結果、中間所得層が増えたのです。

 

このことは、ベトナムにおいて、GDPの70%以上を占める国内消費を押し上げる大きな要因となりました。GDP構成で国内消費が占める割合が先進国並みに高いのは特筆すべきポイントで、ドラゴン・キャピタルではこの内需の強さに注目しています。

 

長谷川 FDI増加の背景には、ベトナム政府が積極的に進めている規制緩和があるようですね?

 

クィン ベトナムは1986年を皮切りに自国の経済を世界に開放しています。私たちはこれを「ドイモイ政策」と呼んでいます。それまでのベトナムは、経済を実質的に支配しているのは国であり、国営企業でした。 しかし、同政策以降、市場経済が開かれ、国際化も急激に進んだのです。今やFDIを受けた民間企業は、これまで業界を独占していた国営企業を凌駕し、ベトナム経済をけん引する勢いを持つまでに成長しました。

 

また、1995年にASEAN、2007年にはWTOに加盟するなど、多くの国と自由貿易協定を締結しています。自由貿易が奨励された結果、貿易に携わる地域は大きく発展し、国の総合的な輸出能力が向上しました。これが過去数年間にわたり、貿易黒字が続いている理由です。

 

下図は2012年以降、ベトナムが経常黒字を継続し、その結果、外貨準備高も過去最高の640億米ドルに達した様子を示しています。

 

[図表1]ベトナムの経常収支と外貨準備高の推移

参考:統計局、ベトナム中央銀行
参考:統計局、ベトナム中央銀行

 

国営企業の民営化も進めるベトナムは、韓国、日本、米国など先進国からFDIを集めることで、民営化後の企業経営の効率化を促しています。

 

長谷川 経常収支や外貨準備高の図表から、順調な経済成長が読み取れますが、その他の指標についてはいかがでしょう。物価動向なども教えていだだけますか?

 

クィン インフレ率、消費者物価指数(CPI)も過去数年間は安定しています。政府は、2007年〜2008年の経済危機から学び、外為政策や地方のインフレ抑制・安定化に適した金融政策を採用、経済を安定成長へ切り替えることに成功しました。

 

対外債務についてはその70%が政府開発援助(ODA)であり、いわゆる投機目的の「ホット・マネー」の占める割合は多くありません。

 

2007年以降、マクロ経済指標(例えばインフレ率や経常収支)の大半は安定しています。これは、過去の失敗を繰り返すまいとするベトナム政府の強い意志が政策に反映・具現化され、実を結んだ結果です。

 

最近では新規株式公開(IPO)も活発に行われています。こういった成長資金の流れもFDIの流入とともに、インフラ開発をさらに進めることになるでしょう。

2017年には世界2位のGDP成長率を達成

長谷川 為替についてですが、過去数ヶ月の間、インドネシアのルピアは売り叩かれ、その対応策として2回の引き締め政策を強いられました。これに比べ、ベトナムドンは非常に安定しています。これはどこに違いがあるのでしょうか?

 

クィン 2011年以来、ベトナムドンは他の新興国通貨よりも安定していますね。過去の値動きを分析すると、ベトナム政府が平均的に対米ドルで毎年2〜3%のドン安調整を目指していることが見て取れます。

 

外貨準備高は過去最高の水準まで積み上がっていますが、政府は輸出競争力を維持するため、安定かつ柔軟な通貨政策を変えるつもりはないようです。したがって、ベトナムドンは毎年米ドルに対して小幅に下落をしていくことが想定されます。

 

[図表2]ベトナムドンの安定性

参考:Bloomberg
参考:Bloomberg

 

長谷川 実際にベトナムに赴くと、当地のエネルギッシュな人々の熱気に圧倒されますが、中間所得層はやはり伸びているのでしょうか?

 

クィン 中間所得層の人口は、2020年には3,300万人に達すると予想されています。これが現実のものとなれば、国内消費も比例して伸びるでしょう。小売売上高の実質成長率は2017年で9-10%、今年もほぼ同じ成長率が見込まれています。

 

[図表3]ベトナム中間所得層の推移予測

参考:ボストン・コンサルティング・グループ
参考:ボストン・コンサルティング・グループ

 

長谷川 ベトナムのGDPについて、もう少し詳しく教えてください。

 

クィン 国内消費が70%を占め、公共投資と純輸出がそれに続きます。純輸出の少なさは、輸入と輸出の均衡がある程度取れていることを示しています。

 

2017年には世界で2番目に高いGDP成長率を達成しました。2018年には中国を上回るGDP成長率を予想しています。ドラゴン・キャピタルの予想では、通年約7.2%成長を見込んでいますが、第1四半期実績は約7.4%でした。このうち、最も高い成長を遂げた業種が小売業と農業です。

 

長谷川 ここまでのポイントをまとめますと、ベトナムはGDPの安定成長、高い輸出成長率、貿易黒字と経常黒字に支えられ、外貨準備高も堅調に積み上がる一方、インフレ率が3〜4%程度で落ち着き、為替水準は年率2〜3%小幅下落調整を続けるだろう……ということですね?

 

クィン はい。そして、株式市場も非常に発展しています。

 

長谷川 それでは後編ではベトナムの株式市場について詳しくお聞きしましょう。

 

(後編に続く)

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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