中国の「経済統計」については、以前から、中央政府が発表する「全国GDP」と各地方政府が発表する「地方GDP合計」に大きなかい離があると指摘されてきた。2018年1月には、内蒙古、天津が相次いで、経済統計に水増しがあったことを明らかにしている。本連載では、中国の経済統計でこうした水増しや矛盾が起こる背景を探る。最終回は、中央政府が発表するGDPは過大なのかを考察する。

「李克強指数」はなお妥当か?

中国経済を批判的に見る海外の一部識者から、中国の真のGDP規模は公表数値よりかなり小さいとの指摘があるが、以下のような様々な要因があり、事はそれほど単純ではない(詳細→https://gentosha-go.com/articles/-/5311参照)。

 

①GDPと「李克強指数」のかい離:2016年、李克強指数を構成する電力消費量(5.0%増)と鉄道貨物輸送量(▼0.8%)が大きく鈍化したにもかかわらず、成長率が6.7%だったことから、公表成長率は過大だとの声が高まった。ただ、かつてはエネルギーの80%以上を占める石炭をもっぱら鉄道で輸送していたが、エネルギー効率の改善や輸送手段の多様化が進んでいるという情勢変化がある。

 

統計局発表では、17年単位GDPエネルギー消費量は目標の3.4%削減に対し実績3.7%削減、またエネルギー構造は天然ガス、原子力、風力、水力等クリーンエネルギーのシェアが1.3%ポイント上昇する一方、石炭シェアは1.6%ポイント低下。サービス業が成長する一方(3次産業GDPシェアは11年44%→17年52%)、その労働生産性がなお低く国際競争力が弱いことは、同産業にまだ大きな成長余地があることを示している。これらを考慮すると、むしろ李克強指数が景気動向を反映しなくなってきたとも言える。

 

 

17年は電力消費量6.6%増、鉄道貨物輸送量10.7%増と回復。李克強指数のもう一つの要素である人民元融資額も12.7%増(16年13.5%増)と安定的に推移し、成長率が6.9%と16年をやや上回ったことと動きが一致したこともあり、かい離の議論は少なくなっている。そもそも一次統計とGDPのような加工統計の動きがかい離する現象は、日本も含め諸外国でも見られる。個々にかい離の原因を点検することが生産的だ。

シェアリングエコノミー、「隠性所得」の存在

②シェアリングエコノミー(中国では共享経済、または分享経済と呼ばれている)の拡大:国家信息(情報)センター「共享経済発展年度報告2018」によると、その市場規模は17年4.92兆元へと47%増、共享経済参加者は前年比1億人増の7億人、サービス提供者は1千万人増の7千万人、共享経済サービスを提供するサイト運営企業の従業員は131万人増の約716万人で都市部新規雇用者10人のうち1人が従事。

 

また同報告は今後5年間年平均30%以上の伸びを予測。20年GDPの20%以上を占めるとの予測もある(17年9月11日付21世紀経済報道)。ネット販売の拡大も相まって、国家統計局は法人と個人企業をベースにした伝統的統計手法では個人消費の正確な把握ができないとして、新興産業、新型業態、新ビジネスモデルのいわゆる「三新」について、付加価値計算方法の見直しを進めているとしている。

 

③「隠性所得」の存在:中国では正規の「白色収入」の他、汚職等違法行為による「黒色収入」、「白色」「黒色」の中間的性格をもつ「灰色収入」という隠れた収入の存在が大きい。中国の民間シンクタンクである中国改革基金会が実態調査、および自家用車保有量、住宅購入、個人海外旅行、銀行預金の数値からあるべき個人所得を推計した結果、隠性収入は2005年4.8兆元(当時GDPの26%)、08年9.26兆元(同29%)、11年15.1兆元(同31%)と一貫して膨張している。

 

その大半は高所得者に集中しており、それ自体は所得格差拡大等の深刻な社会問題を惹起しているが(同調査では、隠性所得の3分の2は上位10%の高額所得層が保有。この結果、上位10%と下位10%の所得格差は公式の23倍ではなく65倍)、GDPの規模という観点からだけ言えば、真のGDPは公表GDPより約30%大きいことになる。

 

公表数値や中国政府の公式説明を鵜呑みにせず批判的に見る必要はあるが、議論が「中国の統計は大嘘」「中国政府の言うことは信用できない」といった情緒的な方向に流れるのはいかがなものか(詳細→https://gentosha-go.com/articles/-/5870参照)。言うまでもなく、最も重要なことは、統計が政府の経済政策の企画立案や、企業や個人の意思決定に正しい基礎を提供しているかだ。統計の正確性、信頼性確保のため、何が行われているのか、いないのか、また中国の場合、問題の背後にある役人の成長至上意識が変わってきているのかを冷静に見極めていく姿勢が生産的だ。

 

 

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