前回は、後継者不在の開業医が医療法人を解散した後、資産はどうなるのかを解説しました。今回は、医師が相続対策を急ぐべき理由を見ていきます。

資産規模が大きい開業医・・・相続対策には時間が必要

前回の続きです。このように、開業医の相続にはいくつもの壁が立ちはだかっています。また、開業医はどうしても資産の規模が大きくなってしまいますから、その分、対策に時間がかかるものです。

 

しかし相続税の申告は、相続発生を知った翌日から10カ月以内と期間が決められています。10カ月というのは意外に短いものです。財産のリストアップをして、相続人で遺産分割協議をし、相続税の申告書類を作成して税務署に提出するとなると、仮にスムーズに進んだとしてもかなりギリギリになってしまいます。

 

もし、財産がどこにどれだけあるのか把握できていないとなれば、家捜しして確認しなくてはなりません。遺産分割協議で揉めれば、決着までに時間も労力もかかります。

 

期限内に話し合いがつかなければ、一旦、法定相続分(民法が決めた遺産分割)で計算して相続税を納税し、後から改めて申告・納税をやり直すことになります。納税が遅れれば、ペナルティーで余分に税金を払うことにもなります。

 

出資持分の問題は、多くの開業医や後継者を悩ませる問題です。これまでに積み上げた病院の資産を目減りさせることなく、いかに確実に後継者にバトンタッチするかを考えていくと、たった一つの対策ではとても対応しきれないことが分かってきます。

 

いくつもある選択肢のなかから、どの対策を取るかを決めたり、よりベストな対策はどれかを選んだり、複数の対策を組み合わせたりしていると、時間はいくらあっても足りないほどです。

もしもノープランで相続を迎えるようなことがあれば・・・

争族トラブルは相続税の対象かどうかや、病院の後継者がいるかいないかなどにかかわらず、あらゆる家庭で起こる可能性があります。「うちの家族は仲がいいから」とか「何だかんだ言っても、いざとなったら分かってくれるはず」というのは、まったく当てになりません。昨日まで仲の良かった家族が今日、いがみ合ってしまうのが相続なのです。

 

絶対に争族にならないという保証のある家族など、この世にはひとつとして存在しません。すべての開業医が「自分の家庭でも起こって不思議はない」と考え、対策を練っておかなければならない問題です。

 

現時点で後継者が決まっていない開業医については、まず誰に承継するのかを考えることから始めなくてはなりません。後継者が決まっている場合でも、いつ承継するのか、どんな方法で承継するのかなどといった計画を立てる必要があります。

 

病院の承継は「出資持分さえ渡してしまえばOK」というわけではありません。病院経営のノウハウや従業員との関係、患者情報、取引先や地域社会との関係など、目に見えない部分の引き継ぎもたくさんあるのです。これらをどうしていくかは、開業医と後継者とで一緒に考え、足並みを揃えて進めていく必要があります。

 

こうしたことを何にも考えないで、ノープランで相続を迎えるようなことがあれば、その開業医家族は次から次へとトラブルに見舞われ、最悪の場合、病院ごと一族もろとも総倒れになってしまうことでしょう。万全な準備をしていてさえトラブルが起こるのですから、ノープランならなおのこと危険です。

本連載は、2016年5月27日刊行の書籍『相続破産を防ぐ医師一家の生前対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続破産を防ぐ 医師一家の生前対策

相続破産を防ぐ 医師一家の生前対策

井元 章二

幻冬舎メディアコンサルティング

医師一家の相続は、破産・病院消滅の危険と隣り合わせ 今すぐ準備を始めないと手遅れになる! 換金できない出資持分にかかる莫大な相続税 個人所有と医療法人所有が入り乱れる複雑な資産構成 医師の子と非医師の子への遺…

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