前回は、銀行融資を受けるための「事業計画書」の作成方法を紹介しました。今回は、歯科医院開業の成否を決める要因の一つ、「開業に適した場所」について見ていきます。

メインとする診療によって「開業適地」は大きく変わる

開業の成否を決める大きな要因の一つが、開業場所です。外部ブレーンに物件探しを依頼するにしても、自分の中で「こんなところで開業したい」というイメージを固めておきましょう。

 

それでは、歯科医院の開業場所は、どのようなところが一番よいのでしょうか? まず一ついえるのは、「どのような診療をメインとするか」によって、開業適地はガラリと変わるということです。

 

たとえば、審美歯科をメインにする歯科医院を目指すなら、女性が来やすいように駅ビルを選んだり、人気のあるおしゃれな街を選んだりするのがよいかもしれません。義歯を得意とする先生なら、義歯年齢の方(高齢者)が多い地域を探すべきです。小児歯科を主とするのであれば、若いファミリー層の多い地域を選ぶのが絶対条件です。

 

ほか、専門を問わず「開業適地」といえる立地の条件は、次のとおりです。

 

①人が多い地域

②将来性がある地域

③競合歯科医院が少ない地域

④たくさんの人や車が通る場所(駅前など)

⑤たくさんの人が集まる場所(商店街、繁華街など)

⑥わかりやすい場所

人が多い場所は「激戦地」という覚悟を持って参入

①の人口の多寡は、各市区町村のホームページで調べることができます。ところによっては、町名別人口も調べられます。ホームページを持っていない市区はほとんどないので、これが一番簡単な資料収集法です。材料業者に診療圏調査を依頼した場合には、人口や年齢構成の資料は診療圏調査に含まれています。

 

人が多いという点では、都心部や「住みたい街ランキング」で上位にくるようなエリアが一番です。しかし、こういったところにはすでに多くの歯科医院があり、患者さんの確保のために激戦が繰り広げられています。そういう場所に新規参入する厳しさは、覚悟したうえで臨まなければなりません。

 

都心ほどでないにしても、郊外にも人口が多い地域はあります。基本的に「一歯科医院当たりの人口」は都心よりも郊外。地方のほうが有利なので、そういった点も考慮したうえで、開業地を検討していきましょう。

 

また、②の希望する地域が将来どのようになっていくかは、各市区のホームページや都市計画担当課で調べることが可能です。開業予定地が駅前であれば駅前開発について、そのほかの地域であれば、その地域に関する道路計画などを事前に調べましょう。何か大きな施設(会社、社宅、工場など)の移転計画があり、この先過疎化が進んでしまいそうなエリアを選んでしまったら、将来の集患に不安がよぎります。

 

③の予定地周辺に競合歯科医院が多いかどうかは、インターネットで調べてから、現地に行って確認しましょう。今住んでいる場所から遠いところに開業する予定だとしても、業者任せにせず、自分で現地に足を運ぶことは必須です。

 

実際にチェックしてみると、地図上に歯科医院と記載されていても、実際は休眠状態の歯科医院もあります。逆に、新たな歯科医院ができていることもあります。また、駐車場や待合室の状況を見ることにより、繁盛している歯科医院かどうかの見当がつきます。

 

候補地のかなり近くに繁盛している歯科医院(それも、目指す方向性が似た歯科医院)がある場合は厳しい競争になってしまうので、注意したほうがよいでしょう。

 

また、近隣の歯科医院の院長がどの大学の出身であるかも、念のため確認してください。歯科医にも学閥のようなものがあり、先輩が開業している場所のすぐ近くで開業するのはご法度という、暗黙の了解があります。最近は緩くなってきてはいますが、注意が必要です。

 

また③ですが、近くに競合歯科医院が少なかったとしても、それがよいこととは限りません。もしかしたら、何らかの原因があってそもそも需要がないがゆえに、競合相手も少なくなっている可能性も高いからです。

 

④⑤のたくさんの人が通り、集まる場所かどうかも、現地で見て確認するのが一番です。最近の開業成功パターンで、「医療モールやショッピングセンター内での開業」というものがありますが、それらが成功しやすいのは、この「たくさんの人が通る場所、集まる場所」という条件に合っているからでしょう。

 

ただし、「ショッピングセンター」は家賃が高く、ショッピングセンターの休業日に合わせるため、休業日がないこともありますので、条件をよく確認してください。

 

最後に、⑥のわかりやすい場所かどうかですが、これも実際に確認が必要です。物件を紹介され、案内図ではとてもよい場所に見えても、実際に行ってみると、わかりにくくてあまりよい場所とはいえないことは多々あるからです。

 

また、テナント開業の場合、ビルの2階以上の物件は原則として「通行している人に気づかれにくい」という大きな欠点があることも、忘れないようにしましょう。ビルの築年数も要チェックです。古いビルは1階でも比較的家賃が安くなるものの、10年程度しか営業できないのでは、多額の開業資金をかけた甲斐がありません。

 

原則としては、これらの点を念頭に置いて、外部ブレーンとともに開業エリア・物件を探していくことになります。

本連載は、2014年3月20日刊行の書籍『一生稼げる歯科医院開業読本』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

一生稼げる歯科医院開業読本

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松本 泰世

幻冬舎メディアコンサルティング

歯科医師とほかの診療科の医師との大きな違いは、近い将来いずれは独立開業を迫られることになるという点です。開業準備は早ければ早い方が有利になります。しかし、具体的に何から手を付ければよいのかが分からずに開業準備を…

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