前回に引き続き、業者の目線で物件を建築するまでの様子を見ていきましょう。今回は、業者が何を意識して「事業計画書」を作成するのか説明します。

融資を受ける際に重要な資料となる「事業計画書」

前回説明したように、筆者たち設計士は事業計画の作成も手掛けます。費用と収益は将来的にどのように推移していくのか、あらかじめ見すえておくのです。

 

住宅メーカーでも同様の理由から事業計画を作成します。しかし、支出にしても収益にしても、どのような数値を当てはめるのかという点で、住宅メーカーと差別化を図ることができていると自負しています。

 

ここで私たちが作成する事業計画書の雛型を紹介しておきましょう。この事業計画書は建築設計の図面とセットにして、金融機関から融資を受けようとするときに事業の内容を説明する資料として利用するものです。

 

表書きには、新しく建設する建物の建設コストと、敷地にもともと建っていた古い建物を取り壊す解体工事費などを記します。資金を借り入れる場合には、金利のパーセンテージと返済期間も併記します。

「建設と運営」という2つの観点から事業計画書を作成

計画書の中身は大きく2つに分かれます。建物を建てるまでの建設段階と建物が完成し稼働するようになってからの運営段階です。事業に掛かる費用という視点でいえば、イニシャルコストとランニングコストという区分けです。

 

まず建設段階です。ここでは建築計画の概要を記載したうえで、どのような用途にどの程度の床面積を充てるかという面積配分を示します。収益を生み出す床がどこにどの程度置かれるのかを示しながら、同時に、それらの床をつくるのに必要な費用を事業費として整理します。

 

ここには、表書きに記載した建設コストや解体工事費だけでなく、什器備品や様々な手続きに掛かる費用なども合算します。事業に掛かる費用のうち、イニシャルコストに当たるものの一切をここで明らかにします。

 

次に運営段階です。建設段階とは違って、ここでは時間軸の中で収支を明らかにします。運営段階とはいえ時間軸の中で計画を立てるので、建物の完成時点ではなく事業のスタート時点を起点に設定します。

 

そこで明らかにする必要があるのはまず、事業のスケジュールです。事業の進行を管理するうえでも欠かせません。事業資金を借り入れる場合には金利が発生しますから、それがどの段階でどの程度のコストになっていくのかを見極める意味でも必要です。

 

建物が稼働するようになれば、床が収益を生むようになる一方で、ランニングコストが掛かるようになってきます。

 

床が生み出す収益は、その時々の設定家賃と見込み入居率との掛け算で決まってきます。ここで役立つのが、不動産管理会社によるマーケティングです。半径500m圏内に立地する賃貸住宅の家賃実態を調べていますから、現実味のある金額で家賃を設定することが可能です。

 

ランニングコストとして掛かるのは、税・保険に掛かるコスト、修繕コスト、建物管理をはじめ、様々な管理の委託費用として掛かるコストなどが挙げられます。減価償却費は支出として現金が支払われるわけではありませんが、事業計画の中では支出の一つとして見込んでおきます。借り入れのある場合には、その返済もコストに含まれます。

 

これらすべてを時間軸の中で整理し、差し引きどの程度の金額が税引き後のキャッシュとして土地所有者の手元に残るのかを明らかにします。ここではキャッシュベースで手元に残る金額を明確にすることが、事業性の判断を下すうえで重要です。

本連載は、2014年6月12日刊行の書籍『変形地の価値を高めるマンションづくり』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

変形地の価値を高める マンションづくり

変形地の価値を高める マンションづくり

宮坂 正寛

幻冬舎メディアコンサルティング

別荘地のような斜面地、一角に他人の土地を挟む変形地、奥まった場所にある旗竿地…。 活用をためらってしまうような条件の悪い土地を活用するためには、その土地の潜在価値を引き出すことが重要です。本書では、そのために必…

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