近年の、いわゆる下請法関連の改正により、下請事業者の生産性改善と賃上げに向けて、親事業者側の協力が強く求められている。多くの場合、親事業者は支払サイトを短縮する必要があり、キャッシュフローの改善が欠かせない。そうした中、現金を回収するまでの日数である「キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)」の重要性が注目されている。本連載では、財務戦略におけるCCCの重要性と改善のポイント等について、一橋大学大学院の野間幹晴准教授とTranzaxの小倉隆志社長が解説する。第1回目は日本の国内企業の「財務戦略」の現状と課題を分析する。

「お金がないから支払を先伸ばしする」が当たり前⁉

小倉 企業価値評価の専門家として、先生は日本企業の財務戦略の現状についてどのように見ていらっしゃいますか?

 

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科
准教授 野間幹晴 氏
一橋大学大学院 国際企業戦略研究科
准教授 野間幹晴 氏

野間 2014年にJPX日経インデックス400という新指数や「伊藤レポート」が公表されたことを契機として、日本企業でも中長期的な企業価値創造やROE(自己資本利益率)の向上を目指して、バランスシートやキャッシュフローに対する意識がこれまでになく高まっています。しかし、「運転資本」の圧縮、そして「キャッシュコンバージョンサイクル(以下CCC)」の短期化という点については、その意義などまだ十分に理解されていないように感じます。

 

小倉 日本企業はなべてCCCが長い傾向があります。遡れば明治の頃から、「お金がないから支払を先伸ばしする」ということが、企業間取引では当たり前になってしまっているのではないでしょうか。また、資金調達が容易な企業ほど支払いを先延ばしでき、資金調達が苦しい企業ほど現金払いを求められるという点も問題です。

 

野間 そもそも、日本企業の間ではCCCはプラスであり、30日から60日くらいというのが常識になっていますが、グローバル企業を研究するとCCCがマイナスの企業は決して少なくありません。

 

小倉 日本では長年、手形決済が当たり前だったことも影響していると思います。手形交換額のピークは1991年頃で、売掛金の実に6割が手形で処理されていました。最近でもまだ売掛金の15%、30兆円くらいで手形が使われており、この5年間ほとんど減っていません。

 

いまだに手形が売掛金の15%を占めている理由

野間 支払サイト(日数)の問題もありますが、手形は事務手続きも煩雑です。生産性向上という流れの中で、こうした非効率なことが続いている特別な理由は何かあるのでしょうか。

 

Tranzax株式会社 代表取締役社長 
小倉隆志 氏
Tranzax株式会社 代表取締役社長 小倉隆志 氏

小倉 確かに謎なんです。むしろ、昨年は増えています。直近でも大阪(手形交換所)で1ヵ月に15兆円、東京でも1ヵ月で11兆円あります。ひとつ考えられるのは、中小事業者にとっては大企業から手形をもらって自社の信用力を金融機関に示したいというニーズがあるのではないでしょうか。

 

ここ5年くらいで電子記録債権が普及し始め、現在、売掛金の7%くらいを占めるようになっているのですが、これは主に一括ファクタリングが切り替わっているもので、手形は減っていません。

 

野間 手形をもらう側にインセンティブがあるということですね。

 

小倉 そうですね。手形を振り出す側にとっては担当者を置いて印字したり、印紙を貼ったりしなければならず、敢えて手形を使う理由はないと思います。日本では現金の流通量が先進国ではずば抜けて多く、現物が好きな日本人の意識が反映しているのかもしれません。

 

取材・文/古井一匡 撮影/永井浩 ※本インタビューは、2017年12月18日に収録したものです。

企業のためのフィンテック入門

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小倉 隆志

幻冬舎メディアコンサルティング

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