今回は、家づくりで多様化する建て主像の一例、「新中間層」について見ていきます。※本連載では、創造系不動産株式会社・代表の高橋寿太郎氏の著書『建築と不動産のあいだ そこにある価値を見つける不動産思考術』(学芸出版社)の中から一部を抜粋し、「不動産思考」の必要性について詳しく見ていきます。

新中間層に比較的多いタイプとは?

前回からの続きです。

 

そうして生まれる新しい建て主像の一例を紹介します。

 

日本全体で見ると、年収400万円以下が全体の4割を占めると言われる低所得時代です。そんな中でも、世帯年収が1000万円を超える家族は増加しているのが私の実感です。つまり一人ひとりは特別に高い年収ではないのですが、夫婦で協力して比較的高い世帯年収を得ている層、これを本書では「新中間層」と呼びます。そして私はこの新中間層が、今後さらに増加すると考えています。なぜなら、この過程の背景に「女性の社会進出」があるからです。

 

国際的に見て、日本は女性の社会進出(※1)を遅らせた、企業内と家庭内の経緯がありました。働く女性の収入、評価、地位等のステータスは、まだまだ不当に低いと言われていますが、時代の気運や政策のバックアップを得て、今後は着実に上昇するでしょうから、この新中間層は増加すると考えられます。

 

その新中間層に接していると、以下のようなタイプの方が比較的多いと感じます。

 

・夫婦ともに企業で働いている。またどちらかが小規模な会社を経営している。

・堅実で、学習意欲が高い。

・情報に敏感で、インターネットは日常的に触れる。

・お互い仕事をしているので、家事や子育てを分担している。

・不動産購入を計画的に検討する。

・中にはお金や投資についての興味が高い方もいる。

・基本的に倹約志向で、一定の預貯金を継続している。

有益な情報を収集し、目が肥える建て主

そして何より、さまざまな情報に触れる習慣があるので、デザイン意識やクリエイティビティが高い方が多いです。単にブランド志向ではなく、値段に関わらず、より良い思想でつくられた、より機能的でよりデザイン性の高いファッション、家具家電、インテリアを好みます。コストを重視しただけの既製品では満足しません。

 

また夫婦協力しての所得や預貯金の実績から、夫婦で自分たち独自の暮らし方や幸せを追求する方が多い、そんな印象があります。ですから自然と、この本の読者にも、この新中間層に当てはまる方が多いのではないかと想像しています。

 

一般的には、DINKS(ディンクス)・DEWKS(デュークス)※2という言葉がありますが、これは収入源と子供がいるかどうかを示す言葉なので、より大きな範囲を示します。そして新中間層の大半はどちらかに属します。

 

これが多様化する建て主の一例ですが、この新中間層は、大比較検討時代を考えるには欠かせない登場人物です。機能性、安全性、デザイン性といった、さまざまなことを満たしたい建て主は、夫婦分担し、インターネットや知人の紹介で有益な情報を収集し、どんどん目が肥えていきます。

 

ところが問題は、この新中間層の建て主が、自分たちだけのデザイン性や機能性を満たしたいと思っても、建築家に家づくりを依頼することが現実的にはなかなかできない、実はそんな事情があるのです。

 

[図表] 新中間層を構成するダブルインカム世帯の推移

総務省統計局
「労働力調査基本集計」より作成
(2011年は宮城県、岩手県、福島県をのぞく)
総務省統計局 「労働力調査基本集計」より作成 (2011年は宮城県、岩手県、福島県をのぞく) 
 

※1 女性の社会進出…1958年、男女雇用機会均等法が成立したが、実効性が不十分であり、男女の平等なキャリア待遇は、実態としては最近になってようやく進んで来た。企業内での風土、出産と仕事の両立、家庭内での育児子育ての慣習。近年それらが改善されつつあることには、国内外から、日本における女性の社会進出の経済効果が期待されるようになったことも影響している。

 

※2 DINKS、DEWKS…「Double Income No Kids」「DoubleEmployedWithKids」の略。DINKS(ディンク
ス)は、子のない夫婦が二人とも収入がある状態、DEWKS(デュークス)は、子のある夫婦がともに働いている状態を指す。対義語のように扱われる場合もあるが、どちらも夫婦の対等な「収入=お金」を背景にしている。

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    本連載は、2015年5月1日刊行の書籍『建築と不動産のあいだ そこにある価値を見つける不動産思考術』から抜粋したものです。稀にその後の法律、税制改正等、最新の内容には一部対応していない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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