施設で亡くなった90歳の父…年収420万円・58歳長男が直面した相続トラブルの始まり

都内の運送会社でドライバーとして働くタツヤさん(仮名・58歳)。年収は約420万円で、築年数の古い賃貸アパートで一人暮らしをしています。

一方、妹のマユミさん(仮名・55歳)夫婦は父と実家に同居しており、生活のサポートをしていました。数年前、父が脳梗塞で倒れてからは、認知機能も徐々に低下。会話がかみ合わない、歩行が不安定になるなど日常の動作に支障が出ることが増え、晩年は介護施設で過ごしました。

タツヤさんも休日のたびに施設へ足を運んでいましたが、「父さんのことは私たちが見ているから大丈夫」という言葉もあり、財産管理などについてはマユミさん夫婦に任せていました。

その後、父は享年90歳で逝去。葬儀を終え、相続について話し合うことになった際、“不可解なこと”が起こりました。

「預貯金はおまえにやる」父の言葉とは正反対…妹が差し出した「1枚の遺言書」

父は生前、一人暮らしのタツヤさんのことを気にかけ、帰省のたびに「俺が死んだら、実家の土地建物は妹に譲るが、預貯金はおまえにやる」と伝えていました。金銭的に余裕のないタツヤさんは、その言葉を今後の生活の支えとして受け止めていたといいます。

そこでタツヤさんが「父さんが言ってたとおり、実家の土地建物はマユミ、預貯金は俺でいいよな?」と切り出しました。

すると、「ちょっと待って、お父さんの遺言書があるの」と、マユミさんは封筒に入った1枚の紙を取り出したのです。

そこには、「私の所有する一切の財産を、長女・マユミに相続させる」という趣旨の文章が手書きで書かれており、日付や父の氏名、押印も揃っていました。一見すると、父自身が書いた自筆の遺言書のように見えます。

しかし、タツヤさんは何度か読み返すうち、違和感を覚えました。たしかに文字の一つひとつは父の筆跡に似ていますが、生前の父は「全部」「半分ずつ」といった平易な言葉を使う人で、「一切の財産を相続させる」といった法律文書のような表現を使う姿を見たことがありません。

さらに気になったのが、遺言書に書かれた日付です。その時期は、父が脳梗塞で倒れたあと、認知機能の低下が目立つようになっていたタイミングです。施設を訪ねても、タツヤさんの名前がすぐに出てこなかったり、預金や自宅の話をしても内容を十分に理解しているのか判断できないことが増えていました。

「この時期の父が、自分の財産を全部把握して、こんな内容の遺言書を自分一人で作れたのだろうか……」

また、実印や通帳といった父の重要な書類を管理していたのは、同居していたマユミさんです。

「父さんは、この文章の意味を理解して書いたのか? 誰かが文章を用意して、父に書き写させたのではないか……?」

タツヤさんの疑念は、しだいに大きくなっていきました。