通帳の残高は「0円」…老後資金2,500万円がきれいさっぱり消え去った日

それから数日間、トシコさんは案内されるがまま、毎日電話口で親身なサポートを受けながら、数回に分けて全財産である2,500万円を指定された「安全な口座」へと送金しきってしまいました。

「これであなたの大切な資産は守られました。犯人を逮捕するまで、この件は誰にも話さないでくださいね」

その言葉を最後に電話は切れ、トシコさんはホッと胸をなで下ろしました。

自分が恐ろしい詐欺に遭ったことに気づいたのは、それから1週間後のことです。生活費を下ろすために銀行のATMへ行き、念のため通帳を記帳したトシコさんの目に飛び込んできたのは、残高「0円」という信じがたい印字でした。

「嘘でしょ? お父さんが残してくれた大事なお金が、全部……」

トシコさんはATMの前で、思わず腰を抜かしてしまいました。あの親切で丁寧なサポートは、トシコさんの全財産を自らの手で奪わせるための悪質な罠だったのです。穏やかな老後を支えるはずだった2,500万円はたった1日で消え、深い絶望だけが残されました。

【弁護士が警鐘】公的機関や銀行からの送金指示は“あり得ない”

まず押さえておいていただきたいのは、警察官や金融庁、銀行職員が突然電話をかけてきて「安全な口座に資金を移してください」と送金を指示することは絶対にないということです。相手が丁寧で、長時間サポートしてくれるほど信用してしまいがちですが、こうした「親切な態度」こそ、詐欺師が信頼を得るために使う典型的なやり口です。

少しでも迷った場合、電話口で判断せずいったん電話を切り、銀行の代表番号や警察署、消費生活センターなど、固定番号が確認できる複数の窓口に別々に確認することが重要です。このとき、相手から教えられた番号にかけ直すのも危険です。自分で調べた番号に確認するようにしましょう。

万が一送金してしまった場合には、ただちに銀行へ連絡して口座凍結を依頼し、警察にも相談してください。

ただし、犯人が逮捕されることと、お金が戻ってくることは別問題です。「振り込め詐欺救済法」により、相手口座に資金が残っていれば取り戻せる可能性はありますが、すでに出金されていれば全額回収はハードルが高いのが現実です。

また、こうした詐欺被害の多くが高齢者です。したがって、本人が注意するだけでなく、家族間で「電話でお金の話が出たら必ず確認する」といったルールを作ることが大切です。

山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士

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