母を亡くした55歳男性の後悔

「俺が兄貴を信じたせいで……母さん、ごめんなぁ」

都内のプライム上場企業に勤めるサトシさん(仮名/55歳)。3年ぶりに訪れた実家の座敷で、彼は泣きながらそうこぼしたといいます。

その傍らで、焼香の煙を眺めながら、金色のロレックスをこれ見よがしに光らせているのは、5歳上の兄、無職のタカシさん(仮名/60歳)です。

サトシさんの後悔の念は、葬儀の準備が進むにつれて「怒り」へと変わっていきました。

サトシさんと兄のタカシさんは、かつては仲の良い兄弟だったそうです。しかし、父が10年前に他界してから、兄弟の歩む道は大きく分かれたといいます。

サトシさんは東京で家を買い、仕事に追われる日々。一方、地元に残った兄は数年前に勤め先を早期退職し、「俺は独り身だし仕事もしていないから、母さんの面倒は俺がみる」と買って出てくれました。

「兄貴には感謝していました。盆暮れに帰れない時も、『俺がいるから大丈夫だ。お前は仕事に集中しろ。そのほうが母さんも喜ぶ』という兄の言葉を鵜呑みにしていたんです」

電話越しに聞く母の体調はいつも「変わりない」とのこと。また、サトシさんは介護費用として月々数万円の送金も続けていたといいます。

しかし、3年ぶりに帰省した実家の光景は、想像を絶するものでした。

“変わり果てた実家”に絶句

実家の庭は荒れ放題。玄関を開けるとカビと埃の臭いが立ち込めます。母が最期まで過ごした居間の畳は擦り切れ、冬場だというのに古い綿毛布が一枚あるだけでした。

「お袋、こんな寒いところで……」

愕然とするサトシさんの視界に入ったのは、居間の座卓に無造作に置かれた兄の私物です。有名ブランドの財布に最新のスマートフォン、そして庭に停められた見慣れぬ外車のキー。不審に思ったサトシさんは、母の遺品整理を名目に、仏壇の引き出しに隠されていた数冊の預金通帳を手に取ります。