お金を返してくれ…父が息子に懇願したワケ

地方都市で年金生活を送るTさん(70代)。現役時代に蓄えた老後資金には、それなりの余裕がありました。転機は5年前、長男の息子(Tさんの孫)が都内の私立大学に合格した時のことです。

T夫妻は「愛する孫が学業に集中できるように」と、4年間で合計400万円の学費援助を申し出たのです。

息子夫婦からは心から感謝され、孫からは直筆の手紙が届きました。

そんな息子家族の喜びように、T夫妻は大満足。これこそが「理想のお金の使い方」だと確信していました。

T夫妻に訪れた転機

しかし、歯車は数年後に狂い始めます。Tさんが脳梗塞で倒れ、一命は取り留めたものの重い後遺症が残ったのです。

リハビリ費用やバリアフリー改修、さらに妻の介護不安も重なり、老後資金は想定を超えるスピードで溶けていきました。

焦燥感に駆られたTさんは、意を決して息子に電話をかけます。

「すまん、老後資金が底をつきそうなんだ……あのときの学費、少しでいいから返してもらえないか」

それを聞いた息子は困惑しながら次のように答えました。

「あれは孫の学費のためにってことでもらったから、もうないよ。それに下の子の塾代もあるし、いま父さんに援助する余裕はないんだ、ごめんね」

この電話以来、息子家族は一切実家に寄らなくなってしまいました。また、Tさんが息子に電話をしても、出ないか「いま忙しいから」と早々に切られてしまうため、Tさんは息子とまともに話すことすらできていません。

“1本の電話”で家族の絆が崩壊…原因は?

医療費によって想定外に家計が悪化したT夫妻は、当初“純粋な善意”で贈与した400万円を「返してもらえるかもしれないお金」として当てにしました。一方、息子家族はそんな両親に対して、「孫のためと言ってくれたのに」という困惑・不信感を抱いているのでしょう。

今回紹介した、親子間の金銭援助がきっかけでトラブルに発展するケースは、決して珍しくありません。こうしたケースでは、大きく分けて次のような原因が考えられます。

■「贈与」と「貸付」の認識の違い

親側は「苦しい時に助けてあげた」という恩義の感覚が強い一方、子側は「余っているからくれた」という認識になりがちです。契約書も条件もない口約束の支援は、時間が経つほど記憶と解釈が都合よく書き換えられ、トラブルの火種となります。

■老後資金の見積もり不足

支援を決めた時点では「大丈夫」と思っていても、今回のような医療費や介護費用の増加をはじめ、老後は想定外の支出が起こりやすいため、「大丈夫だと思っていた」という後悔が起きやすいのです。

相続トラブルに発展するケースも

教育費の支援が特定の孫だけに行われた場合、将来的に兄弟姉妹間で不公平感が生じることがあります。

「あの家だけ多く支援されたのでは?」

こうした疑念が相続時に噴出して家族間の分断につながるケースもあるため、注意が必要です。