弁護士の回答

今回紹介したケースについて、親子間のやり取りとしては自然な流れですが、法的に見ると両親の立場は極めて厳しいと言わざるを得ません。

ケンイチさん夫婦の認識としては「同居を前提とした条件付きの贈与」だったのでしょう。

しかし、条件付き贈与は、条件が成就しなかった場合の返還について明確な合意や書面がなければ、法的に認められにくい不安定な構成です。本件のように書面が存在しない場合、通常は親から子への単純な贈与と評価され、裁判で返還を求めることは容易ではありません。

ケンイチさん夫婦はどうすればよかったのか

今回の場合、贈与ではなく「貸付」として借用書を作成し、同居が実現しない場合には返済する旨を明確に定めた金銭消費貸借契約(※)を締結しておくべきでした。

(※)法的には、「同居が実現しない場合」といった条件付けにするのではなく、「同居できるかどうかが決まる時期を返済期限」とした金銭消費貸借契約を締結しておくほうが安定性が高い。

その形であれば、裁判所を通じて返済義務を認めてもらえる可能性は格段に高まったと考えられます。

ケンイチさん夫婦は、息子に「この1,000万円は自宅のリフォーム資金だが、同居できるなら不要になるから援助する。状況が変わって同居できないとリフォームに必要だから、あくまで貸付の形をとる」などと伝えておくべきでした。

親子間の資金援助は、「子どもが喜ぶ顔を見たい」「細かいことを言って嫌われたくない」といった思いから、きちんと契約書を作成しているケースは多くありません。しかし、この手間を怠ることで、最悪の場合「絶縁」にいたるほど関係がこじれてしまうリスクがあるのです。

老後のために必要なお金ならば、子どもに対しても、贈与なのか貸付なのか前提を説明しておくべきだったといえるでしょう。

山村 暢彦
弁護士法人 山村法律事務所
代表弁護士