シニア世代のなかには、老後のために自ら財産を管理している人も多いでしょう。ところが65歳以上の高齢者のうち約12%が「認知症」になっており、財産管理に必要な「判断能力」が今後著しく低下する可能性は否めません。特に配偶者がいない「おひとりさま」が万が一に備えて対策しておくべきことは? そこで本記事では、弁護士の菊間千乃氏による著書『おひとりさま・おふたりさまの相続・終活相談』(新日本法規出版)から一部抜粋して、対策として有効な2種類の「後見制度」について具体例とともに解説します。
認知症で財産を管理できなくなる前に…万一の場合に備えて〈おひとりさま〉が知っておくべき「2つの後見制度」活用法【菊間千乃弁護士が解説】
将来、認知症になったら、財産管理はどうしたらいいの?
Q.私は、おひとりさまで、75歳の現在も元気に一人暮らしをしていますが、もし、今後、私が認知症になってしまったら、財産管理はどうしたらよいのでしょうか?
A.法定後見制度の利用が考えられます。
◆判断能力の低下と財産管理
認知症になるなどして、判断能力が低下してからでは、任意後見契約や財産管理委任契約や信託契約を締結することは原則としてできません。
◆法定後見制度について
法定後見制度とは、認知症、精神障害などにより判断能力が不十分な人を、家庭裁判所により選任された成年後見人等が法律的に支援する制度です。本人の判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助の3類型があります。
法定後見の申立ては、家庭裁判所に対して行う必要があり、この申立てができるのは、本人、配偶者、4親等内の親族、任意後見人、任意後見受任者などです。
◆後見について
後見制度の対象者(成年被後見人)(A)は、精神上の障害により、判断能力を欠く常況にある人です(民7)。後見が開始されると、Aは、日用品の購入や日常生活に関する行為は自分でできますが(民9ただし書)、それ以外の行為は成年後見人(B)が行うこととなり(民859)、Aが行った法律行為は原則取り消すことができます(民9本文)。
なお、Bが、Aに代わって、その居住用建物・敷地について、売却・賃貸・賃貸借の解除・抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可が必要です(民859の3)。
◆保佐について
保佐の対象者(被保佐人)(C)は、精神上の障害により、判断能力が著しく不十分である人です(民11)。
保佐が開始されると、Cは、民法13条1項各号所定の行為(借金や不動産の処分などの重要な行為が列挙されています。)及びそれ以外で家庭裁判所の審判(前提としてCの同意等が必要)によって定められた行為については、保佐人(D)の同意が必要となります。
Dはそのほか家庭裁判所の審判(前提としてCの同意等が必要)により特定の法律行為について付与された代理権を有します(民876の4)。
◆補助について
補助の対象者(被補助人)(E)は、精神上の障害により判断能力が不十分な人です(民15)。Eは、家庭裁判所の審判(前提としてEの同意等が必要)によって補助人(F)に同意権が付与された特定の法律行為については、Fの同意が必要です(民17)。
Fはそのほか家庭裁判所の審判(前提としてEの同意等が必要)により特定の法律行為について付与された代理権を有します(民876の9)。
Eは、成年被後見人らに比べて不十分ながらも判断能力がありますので、そもそも同意権や代理権を付与するか、いかなる行為に付与するかについて、Eの同意等が必要とされています(民15②・17②)。
菊間 千乃
弁護士法人松尾綜合法律事務所
代表社員弁護士公認不正検査士