高齢化が進展する日本では、認知症を患う人が増えています。もし家族に認知症患者がいる場合、相続の問題を見越し、できるだけ早い段階で手を打つべきだと、司法書士法人永田町事務所の加陽麻里布氏はいいます。その理由はいったいなんでしょうか。具体的な事例をもとにみていきます。
【資産総額6,000万円】すべてを忘れた認知症の母、瀕死の父…迫る相続「母をスキップして息子2人で遺産分割」は可能か?【司法書士が助言】
父の遺産、母親を飛ばし「子どもだけ」で相続することは可能?
では、彰さんの言うように、隆文さんの相続財産を、母の靖子さんを飛ばして、子どもたちだけで相続することは可能なのでしょうか?
原則、遺産分割協議で話し合うことによって2人のみに相続させることは可能です。しかし、遺産分割協議は必ず相続人全員で行わなければなりません。
今回の場合、靖子さんは認知症を患っています。認知症の症状の重さにもよるのですが、遺産分割協議を行っても、その協議は法律上有効と認められない可能性が高くなります(認知症は民法上「意思能力のない者」として扱われるため)。
また、靖子さん抜きにして、2人で遺産分割協議を行なっても、その遺産分割協議は法律上無効となります。
このような事態になってしまった場合は「成年後見制度」を利用し、成年後見人を交えて相続問題を解決するしか方法はありません。
しかし、成年後見人は家庭裁判所の審判によって決定されるので、専門家後見人が選定された場合、靖子さんが亡くなるまで毎月数万円の報酬を支払う必要があります。また、靖子さんの財産は成年後見人が管理することになるので、兄弟2人で自由にその利用を決定することが不可能になってしまいます。
仮に親族が成年後見人に選ばれても、財産の管理は、後見制度支援信託を利用しなければならない可能性があります。後見制度支援信託とは、日常生活で使う金銭以外は、財産横領を防ぐことを目的として信託銀行などに信託する方法です。こちらを利用する場合においても、信託報酬を支払わなければなりません。
よほどの事情がない限り、成年後見制度を開始してしまうと、変更・取消は不可能になってしまいます。このような事態を回避するためには、ご両親が元気なうちから対策しておかなければなりません。成年後見制度を回避して相続をする方法としては、以下の方法が挙げられます。
①家族信託
②遺言
③生前贈与
家族信託においては、家族の資産について管理・処分だけでなく運用についても委任することができます。また、相続人が納得できる公平な遺言を残すこともとても有効な相続対策のひとつです。遺言書通りに相続することで、遺産分割協議を行う必要はありませんので、相続手続きをスムーズに終えることができます。そして、生前贈与によっても、死後相続分となる財産を前もって贈与することは可能です。しかし、相続開始3年前までのものには相続税が課税させるので注意が必要です。
これらの方法の利用は、いずれも本人が元気なうちでなければ利用できません。また、お金に関する話し合いを行ってから取り決めなければならないので、親子関係が良好でなければ利用は難しくなってしまいます。
したがって、日頃から相続を含めた将来のことを親子で話し合い、しっかりとしたコミュニケーションをとることをお勧めします。
加陽 麻里布
司法書士法人永田町事務所
代表司法書士