そして、最後の瞬間に大逆転
深夜、総理大臣の会見がはじまった。政府が破産する瞬間を見届けようと、人々は総理の口元を固唾を飲みながら見つめていた。総理が口を開いた。「嵐は過ぎ去りました」。人々は、何が起きたのかわからず、混乱した。総理は続けた。
「日本政府は、1.3兆ドルの外貨準備を持っていました。それを1ドル300円で売り、390兆円を得ました。それを使って額面100円の国債を30円で買ったところ、額面1,300兆円分の国債が購入できました。つまり、日本政府は発行済み国債をすべて買い戻すことに成功したのです。いまや、日本政府は無借金なのです」
国債を安値で売った人、ドルを高値で買った人は、大いに悔しがった。しかし、最も蒼い顔をしていたのは、国債を空売りしている投機家であった。期日までに国債を買い戻さなくてはいけないのだが、発行済みの国債はすべて政府が持っているので、政府に国債を売ってもらわなくてはならない。「まさか法外な値段で売りつけられることはあるまい」と自分に言い聞かせることくらいしか、できることは無かったのだ。
大損をして破産した投資家も多かったが、投資は自己責任であるから、政府が救済する必要は無かった。と言いたいところだが、何事にも例外はある。銀行が倒産してしまうと、日本経済への打撃が大きいので、銀行は救済する必要があるのだ。
そこで政府は銀行に無議決権優先株を発行させ、それを購入することで銀行に資本金を注入した。将来の利益で買い戻すことを約束させたので、事実上は貸し出しをしたのと同じようなものであったが。優先株の購入資金は国債発行で賄ったが、何も問題はなかった。政府が無借金になったことを知っている投資家たちがよろこんで国債を購入したからである。
翌朝、何事もなかったかのように、日本経済は動き出した。銀行も通常営業だったから、投資に興味のない一般庶民の中には、つい数時間前に日本経済が死の淵を彷徨っていた、ということに気付いていない人も多かったようである。
人から「アイツは破産する」と思われることの、意外なメリット
…以上がシミュレーションです。
筆者がこのシミュレーションを思いついたのは、友人から以下のエピソードを聞いて、「他人に破産すると思われると、自分が発行した借用証書が安く買い戻せて得をする」ということに気付いたからです。
そのエピソードは以下の通りです。
「ある途上国に悪徳オーナー社長がいた。自分の会社が多額の社債を発行し、兄の会社からゴミを高値で買い取った。会社は債務超過になり、投資家に社債償還不可能を告げた。投資家は社債を投げ売りしたので、それを兄の会社が安値で買いまくった。結局儲かったのは悪徳兄弟で、損したのは投資家だった」
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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