本当に「フランス革命前夜」レベルの世界的格差があるのか
「だって、働かなくても投資で稼げちゃうんでしょ。ずるいですよ。お金持ちは、投資でどんどんお金を増やせるけど、うちみたいな家はどんなにがんばっても、投資に回すお金なんてないし」
目頭が熱くなるのを感じた優斗は、うつむいたまま話し続けた。
「お金がある人は、えらそうなこと言えるからいいですよね」
そこまで口にして、ようやく我に返った。ボスを責めてもしょうがない。一線を越えた発言を後悔して、優斗はおそるおそる顔を上げた。
ところが、ボスは優しくほほえんでいた。そして、ひとつうなずいてから、こう言った。
「僕は、格差の問題にはきちんと向き合いたいと思っている。優斗くんには、特にその話をしたいと思っていたんや」
どうして「特に」なのか、このときはわからなかった。それでも、とってつけた言い訳には聞こえなかった。彼の表情からそれだけの真剣さが伝わってきたのだ。
優斗が返す言葉を探していると、七海がこんな話を始めた。
「働くよりも投資するほうがお金を増やせるから、格差が広がり続けていると本で読んだことがあります。世界中の人を資産額で並べると、バス1台に乗る人数の大富豪が、下半分の36億人と同じだけの資産を保有しているそうです」
「えー、そんなにあるんですか⁉」
気まずさを隠すために、優斗は目を丸くして、おおげさに驚いてみせた。
「そうなの。今の格差は、フランス革命前夜と同じくらいまで広がっていると言う人もいるのよ」
フランス革命は、優斗も聞いたことがある。貧しい国民を厳しい税金で苦しめていた王室が革命によって倒された。国王と王妃のマリー・アントワネットが処刑された話は有名だ。
ところが、ボスの意見は違うようだった。
「なんや。バスに乗る大富豪がみんな悪者みたいやな。フランス革命のころと同じくらいの格差やと思っている人は、お金しか見てへん。格差はずっと縮んでいると僕は思うで」
七海はいぶかしげな目を向けたが、ボスは嘘をついてごまかす人ではない。その話の続きが、優斗は気になった。
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