(写真はイメージです/PIXTA)

入居者による迷惑行為や入居者同士のトラブルは、貸主(物件オーナー、賃貸人)の悩みのタネです。なかには入居する先々で問題を起こす“モンスター入居者”と呼ばれるトラブルメーカーも。自身の物件にトラブルを頻発する入居者がいた場合、強制退去させることができるのでしょうか。また、トラブルを防止するために、貸主にはどのような対策が求められるのでしょうか。弁護士・溝口矢氏が解説します。

迷惑行為をする入居者を追い出すことはできるのか?

迷惑行為をしている入居者がいるとしても、ただちに退去をさせることは容易ではありません。物件が生活・営業の基盤となるため、借地借家法や判例・裁判例によって、借主は手厚いフォローがされる傾向にあるためです(単に迷惑行為があるのみでは退去させることを認めなかった裁判例も複数あります)。

 

もっとも、退去(賃貸借契約の解除)が認められるかの判断は事案によって変わります。また、上述のとおり、貸主は、ほかの借主に対して、物件を通常どおり使用・収益させる義務を負っているため、貸主としては、退去には至らなくとも迷惑行為を阻止するよう努める必要があります。

 

そこで、所有している物件において迷惑行為がある旨を確認した場合には、次のような対応をしていくことが考えられます。

 

(1) 迷惑行為の特定

一口に迷惑行為といっても、騒音や嫌がらせ、通行妨害、暴力・暴言、不良的言動、奇行、ごみの不始末、ペット飼育等、さまざまです。そして、このような迷惑行為とされているものの具体的な内容や物件の状況等の詳細な事実関係を踏まえ、法的に迷惑行為と認定できるかどうかや迷惑行為にあたる場合の程度の大きさを慎重に判断する必要があります。

 

苦情を申し入れた側の嫌がらせや過大な要求である場合もあるため、まず初期の段階では正確に事実関係を把握することが重要です。苦情を申し入れた側に、証拠となる資料の提供を求めるのも有効でしょう。そして、迷惑行為がある場合には、その内容に適したアプローチを検討する必要があります。

 

(2) 注意・迷惑行為防止措置等の実施

迷惑行為があった場合に貸主側が行う対応として一般的なものには、管理会社による対応の記録化、迷惑行為者への注意・警告の実施(書面やメール等の形に残しておくと後に法的紛争に発展した際の証拠として使用することが可能です)が挙げられます。

 

このほか、掲示による注意喚起や管理人の見回り等、迷惑行為の内容に即して必要な措置をとっていきましょう。

 

(3) 退去(賃貸借契約の解除)に関する交渉・法的措置の実施

以上のような対応を経ても迷惑行為が止まず、その程度が著しく悪い場合には、迷惑行為を行う借主に対して、退去(賃貸借契約の解除)を求めることが考えられます。

 

退去を実現する方法は、任意の交渉か、訴訟提起(裁判)かのいずれかです(任意の交渉を選択した場合でも、話がまとまらなければ訴訟提起に移行することになります)。

 

任意の交渉から入るか、訴訟提起によって求めていくかは、当該借主との話し合いの余地があるかどうかや条件面についての考え、迷惑行為の内容等を踏まえて総合的に判断する必要があります。

「退去は容易ではない」のが事実…的確な“証拠収集”を

上に挙げた3つでいえば、(3)のように大事になってから弁護士に相談する貸主も多いのですが、それ以前の対応が結論に影響を及ぼすことも少なくありません。

 

上にみたとおり、「退去させることは容易ではない」というのが事実である以上、できる限り適切な対応を積み重ねるとともに、的確な証拠収集をしておく必要があります。手のかかりそうな迷惑行為を確認した場合、早めに弁護士へ相談するのがおすすめです。

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※本記事は、「不動産業界から『あなた』を守ります」をコンセプトに株式会社LandSitzが運営する『不動産投資の裏側を知る教科書』のコラムより、一部編集のうえ転載したものです。