「ふるさと納税」節税のつもりが「税負担増」に!? “総務省の告示”で露わになった「深刻な問題」とは【税理士が解説】

「ふるさと納税」節税のつもりが「税負担増」に!? “総務省の告示”で露わになった「深刻な問題」とは【税理士が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

2023年6月27日、総務省は「ふるさと納税」制度について、募集経費の割合や、返礼品として認める「地場産品」の基準を厳格化する旨の告示を出しました。ふるさと納税については、自治体が負担する経費率の高騰や、加熱する返礼品競争等の問題が指摘されています。それらがどのような事態を招くのか、現行制度が内包する問題点について、税理士の黒瀧泰介氏が解説します。

「経費率の高さ」は「増税」を招く可能性がある

では、経費率が高くなることは、結局、どのような問題につながるのでしょうか。

 

結論からいえば、「増税」または「財政赤字の拡大」を招くおそれがあります。

 

すなわち、経費率が高くなれば、全ての自治体を合わせたトータルでの税収が実質的にマイナスになります。

 

どういうことか、例を挙げて説明します。

 

「A市」の住民Xさんが、「B町」にふるさと納税の制度を利用して「10万円の寄付」をするとします。

 

Xさんがふるさと納税をしなければA市が10万円を全額、税収として獲得することになります。これに対し、ふるさと納税をする場合、B町が10万円を獲得することになりますが、B町は経費を負担しなければなりません。

 

B町が負担する経費の額が5万円(経費率50%)だとすると、Xさんがふるさと納税を「しなかった場合」と「した場合」のお金の動きの違いは、以下の通りです。

 

【Xさんがふるさと納税をしなかった場合】

・A市:10万円の税収(+10万円)

・B町:何もなし(0円)

 

【Xさんがふるさと納税をした場合】

・A市:10万円の税収喪失(0円)

・B町:10万円獲得だが5万円の経費負担(+5万円)

 

これを全国の自治体トータルでみると、経費の分だけ、実質的に税収が失われていることになるのです。

 

その結果、自治体によっては、財源が足りず、行政サービスに支障をきたすようになる可能性があります。

 

たとえば「ごみの収集・処理」、「上下水道事業」、「道路整備」「公共施設の設置・維持管理」等、住民の日常生活に密接に関連する事業の財源までが不足するということになると、地域社会の存立を脅かす深刻な事態になります。

 

「地方交付税交付団体」であれば、不足分を「地方交付税交付金」により補てんしてもらうことが考えられます。

 

この「地方交付税交付金」は国の税金から出ているものです。もし、財源が足りなくなれば、結局は増税、あるいは赤字国債によって賄わなければならなくなる可能性が高まります。

 

これに対し、地方交付税交付金の「不交付団体」だった場合、国から補てんしてもらうことができません。そうすると、こちらも「増税」という形で賄わざるを得なくなる可能性があります。

 

なお、6月23日に東京都世田谷区がふるさと納税によって2022年に総額約97億円の「財源の流出」があったと公表して話題になりましたが、同区ほか東京23区(特別区)は地方交付税の不交付団体なので、財源の流出はきわめて深刻な問題となります。

 

ふるさと納税には、自治体ごとの税収の不均衡を是正し、地方の活性化につながるという側面があります。返礼品競争もその意味ではプラスの効果をもたらすことがあります。自治体の知名度の向上や、地場の業者の振興・発展につながる効果も期待できます。

 

また、経費の負担も、足し算・引き算だけでは割り切れない効果をもたらす可能性があります。

 

しかし、その反面、ふるさと納税の制度の利用の急激な拡大に伴って、経費負担の増大、ひいては「増税」ないしは「財政赤字の拡大」を招くおそれがあることも、忘れてはなりません。

 

そんななか、総務省が提示した新しいルールが、ふるさと納税をより健全な方向へと誘導することになるか、注目されます。また、私たちも、納税者として、ふるさと納税の理想的なあり方と、よりよい制度設計を考える必要があるといえます。

 

 

黒瀧 泰介

税理士法人グランサーズ 共同代表

公認会計士

税理士

 

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