こんな未来、自分たちは嫌だ! と声を上げた高校生たち
北アルプスの麓に位置する長野県白馬村は、冬はスキー、夏はパラグライダーなどのアクティビティがさかんで、年間250万人が訪れる観光地である。近年では、春から秋の「グリーンシーズン」の観光客数が非常に伸びており、全国のスキー場関係者が注目している。
一見、順調に見える白馬の観光産業だが、グリーンシーズンの観光客誘致に力を入れる背景には「降雪量の減少」という深刻な事情がある。2016年は記録的な小雪によって、スキー場が休場せざるを得ない日もあったという。
「当たり前ではない未来に向かっている」―その状況に、最初に声を上げたのは、2019年、白馬高校の高校生たちだ。同年9月に有志が集って「いつまでもパウダースノーの白馬であってほしい」と、気候非常事態宣言の発令を呼びかける署名を集め、村長に要望書を提出した。足元の降雪量の減少の原因が地球温暖化とは断定できない。
しかし、温暖化対策が白馬の環境保全につながることは間違いないだろう。その後、長崎県壱岐市、神奈川県鎌倉市に続き、白馬村は日本で3例目となる気候非常事態宣言を発令した。
サステナブルな白馬を目指す手段として白馬村が取り組んだのが、「サーキュラーエコノミー」である。原料から生産し、消費した後、廃棄ではなくリサイクルする、いわば循環型経済だ。これまで4回にわたり、共創型カンファレンスを実施し、150社200名超が参加するコミュニティが形成されている。
ニセコも白馬も目指すは同じ
白馬村の取り組みは「サステナブルを、遊ぶ、企む、つくる」がコンセプトだ。観光局事務局長の福島洋次郎氏は生まれも育ちも白馬村。「白馬の自然は、海以外は全てあるんですよ。湘南の人たちは、朝出勤前に波が良ければサーフィンしたりしますよね。白馬でも今日は朝スキーやスノーボードしてから仕事もできる。白馬村のライフスタイルそのものを楽しみに来てもらいたいんです」と、少年のように語った。
2023年3月までニセコリゾート観光協会事務局長を務めていた山口浩史氏は、今後のニセコについてこう語った。
「泳がない人もハワイやマリンリゾートに行きますよね? ビーチで寝そべってアロハミュージックと波の音を聞きながらトロピカルドリンクやカクテルを楽しむのと、深々と降る雪を眺めながら、暖炉の前でロッキングチェアに揺られながらスコッチウイスキーを傾ける…これ、本質は同じですよね? なのに、何故スノーリゾートにはスキー、スノーボードをする方々しか訪れないのか?
だからスキー、スノーボードだけではない、スキー、スノーボードをしない『冬のニセコの魅力』を創出しようと取り組んでいます」
自分たちのサステナブルなライフスタイルと雄大な自然。それこそがニセコと白馬の圧倒的な無形資産なのだ。その無形資産を自らの手で守っていくことは、自分たちと将来の世代を守ることに直結する。皆が理解して、手を取り合って進んでいる。それこそが彼らがインバウンドを含めた多くの観光客を魅了する要因の1つなのである。
<以下資料>
<参考>
年間175万人(2019年度実績)の観光客が訪れるニセコ町は内閣府の「環境モデル都市(※1)」「SDGs未来都市(※2)」に選ばれており、近年は、持続可能な観光の分野でも、Green Destinations「世界の持続可能な観光地100選(2020・2021年度)」での表彰や観光分野における地球温暖化対策「グラスゴー宣言」への署名、国連世界観光機関(UNWTO)の2021年「ベスト・ツーリズム・ビレッジ」での選出など、サステナブル観光への取り組みに力を注いでいます。
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植田 聡子 (PRコンサルタント)
全日本空輸株式会社、株式会社福武書店(現:ベネッセコーポレーション)、株式会社ベルシステム24を経て、東京都庁に入都。広報部署をメインに、文化事業、東京2020組織委員会広報局などを経て、2020年独立。外資系OTAにおいては官公庁や自治体の渉外窓口として、インバウンド誘客などの事業を実施。 現在はスタートアップや中小企業をクライアントとして広報・PRサポート、地域観光振興支援、講演・セミナー等を行なっている。 関心領域は観光による地域再生、官民連携、アート、スポーツ、社会課題解決、食、パラレルキャリア、セカンドキャリア。 2017年より神楽坂と相模湖の二拠点生活を実施中。国家資格キャリアコンサルタントとして、公務員のキャリアや個人のコンサルティングにも対応。