(※写真はイメージです/PIXTA)

認知症になったら自分に、あるいは家族にどういう影響が出るか、ちゃんと知っているだろうか。認知症になると「自分のことは自分で決める」が、まったく通らなくなる。そのため、家族に大きな負担をかけないためにも、ぜひ事前に対策をしてほしい。行政書士であり静岡県家族信託協会代表の石川秀樹氏に詳しく解説いただく。

遺産分割/放棄もできない

【相続に関すること】

遺言書を書くこと

成年被後見人でも一時的に回復したときは、条件付きで可能となる(民法973条)が、実際には難しい。

 

贈与の実行

贈与は送る側の意思と、もらう側の意思が一致しないと成立しない。認知症が深刻だと贈与は無理だ。

 

遺産分割または相続の承認/放棄

認知症が深刻だと遺産分割協議に参加できない。これは本人も困るが、実は家族(他の相続人)の方がもっと困ったことになるだろう。

 

なぜなら、遺産分割は「相続人全員の一致」が決まり。1人でも不参加となると遺産の分配が宙に浮く。成年後見の申立てを強いられることになりかねない。マイナスの財産があった場合の相続放棄にも認知症の影響は重大だ。認知症の本人は、相続放棄もできない。放棄の意思を家庭裁判所で申述しなければならないから、無理なのだ。

 

家族は悩むだろう。まさか認知症の人にマイナスの遺産をひとり負わせられない。となればここでも家族の申立てで、本人に対して後見人等の選任をしてもらうしかない。

 

贈与もしくは遺贈の拒絶、または負担付の贈与もしくは遺贈の受諾

放棄以上に高度な判断力を要する。

 

寄与分を定める申立て

遺産分割で考慮してもらいたいことを主張できない。

 

遺留分侵害額の申立て

遺言で不利な相続になっても、権利を主張することさえできない。知らないまま泣き寝入りになるか、本人のことを思いやる家族の手で後見人等の申立てをすることになるか、どちらかだ。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
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【医療に関すること】

医療契約の締結・変更・解除及び費用の支払い

手術も医療側との契約。したがって本人の認知症が深刻なら、手術への「同意」が成立しない。

 

よく誤解されているが、成年後見人に、手術の同意権や延命治療や措置について可否を判断する権利などありはしない。熱心に被後見人に接することもなく、被後見人の人となりを知らず、考え方、死生観を聴いてもいない職業後見人に、命にかかわる判断ができないのは当然だ。家族も基本的には同じ立場である。しかし医師は家族に同意を求め、家族がいなければ後見人等に可否を求める。責任逃れの<判断のたらい回し>を勝手にされたくないなら、本人は自分の命をひとごとにしないで、ふだんから家族と死生観を共有しておくことが肝要だ。

成年後見ではカバーしきれない

この記事は、「任意後見の代理権目録」;任意後見契約に関する法律第3条の規定による証書の様式に関する法務省令(附録第1号様式)を参考にした。だから、ここに書いた「本人にできないこと」は、おおむね成年後見制度(成年後見人・保佐人・補助人・任意後見人)を使えば「何とかできる」という範囲を示している、とされている。

 

法曹関係者はそう思っているし、そのように「成年後見」を印象付けているが、実務家の私から見ると、それは事実とは違っている。「できる」とされている多くのことが、成年後見制度を使っても(この限られた範囲のことでさえ)「すべてできる」とはいいがたい。

“光”を求めるなら家族信託

成年後見制度は「万能」どころか、あくまで緊急避難であり、認知症の人本人が生きるための最低限のことをカバーするにすぎない。逆に後見人等がつくことにより、人間にとって何より大切な「(自分のことは自分で決める、という)自己決定権」を奪われてしまうことを、覚えておいてほしい。

 

成年後見とは別の発想から生まれた財産管理法である「家族信託」なら、財産管理については、受託者を通して大半が行えるようになる。株式や不動産の売買が行えるし、ローンを組み、担保を提供することもできる。さらに、委託者に代わって、経営そのものもできることは、成年後見をはるかに凌駕する家族信託の利点だ。

 

 

石川 秀樹

静岡県家族信託協会 行政書士

※本稿では、「できないこと、後見人として実行すべきではないこと」には赤いマーカーを付けている。

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